くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 飯田蛇笏(いいだだこつ)の教材の俳句の意味、表現技法の解説をこの句の感想と合わせて記します。
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くろがねの秋の風鈴鳴りにけりの解説
現代語での読みと発音:
くろがねの あきのふうりん なりにけり
作者と出典:
飯田蛇笏
現代語訳
黒い鉄の風鈴が取り残されて秋風に鳴っていることよ
句切れと切れ字
・句切れなし
・切れ字「けり」
季語
・季語は「秋」「風鈴」
風鈴は「夏」の季語だがここでは「秋の」が冠されていて、秋の風景であることがわかる
形式
有季定型
表現技法
・一物仕立て
一物仕立てとは
語句と文法
・「くろがねの」… 「鉄製の」の意味の和語。
類語に「しろがね」=銀、「あかがね」=銅などがある。
・秋の風鈴…簡潔に表されており省略がある。 以下の解説参照
「鳴りにけり」の品詞分解
・鳴りにけり…「鳴る+ぬ(完了の助動詞の連用形)+けり(詠嘆の助動詞)」
解説
飯田蛇笏の風鈴を詠んだ俳句。
風鈴とは
風鈴とは軒下につるし、鳴る音を楽しむためのもので、実用品ではなく装飾と楽しみのために利用するもの。
軒下、つまり、屋外につるすため近隣の家にも音が聞こえる。
本来は夏の季語。
「秋の風鈴」がポイント
一句のポイントは「秋の風鈴」にある。
「秋の風鈴」には省略があり、夏に音を鳴らす風鈴がそのまま置かれているという意味。
「くろがねの」とは
くろがねというのは鉄のことで、風鈴には他にガラス製などの軽いものもある。
鉄なので風鈴自体の重さもあり、その音も重厚な音がする。
また、「くろがね」という音の響きも重々しく、「くろ」の色彩感も夏の華やかさとはほど遠く、秋を体現するものとなっている。
この俳句の季節
「風鈴」は通常夏の季語だが、「秋の風鈴」とされるので、全体は秋の句であることがわかる。
秋の取り残された風鈴、つまり、忘れ去られたものへの悲哀が句の主題である。
作者の思い
一句は「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」として、感情語は入っておらず、動詞は「鳴りにけり」の一つだけであるが、「けり」は作者の詠嘆を表す。
ここに作者の思いを読み取ることが大切になってくる。
くろがねのは、鉄を鳴らす音、すなわち「重々しい音のする」と読み取る。
「秋の風鈴」の省略を含む句は、作者ではなく、誰か近隣の人が夏にしまうべき風鈴の取り外しを忘れてしまったと読み取る。
「鳴りにけり」は「鳴った」で済むところを「なりにけり」の1句まるまる5文字を使っている。「鳴ったのだなあ」の作者が耳を傾けている様子がわかる。
作者の思いは「鳴りにけり」の結句にあるが、上句を含めたこれらの要件をすべて合わせて作者の思いを想像することが、すなわち読み取りとなるだろう。
「鳴りにけり」の詠嘆
作者がその風鈴の音に「鳴りにけり」という時は、それはどのような感情なのだろうか。
秋風は既に冷たさを帯びており、それに鳴る季節外れの風鈴の音は、さびしい音であろう。
風鈴が取り外しを忘れられているということは、風鈴をつけた人の無関心、または不在を表しているだろう。
夏ならばその音が喜ばれ、珍重されていた風鈴は、季節の移り変わりによってそれを吊り下げた本人からも忘れ去られるものとなってしまった。
秋の風景の中で、風鈴の音にひとり対峙する作者。
風鈴も一つならまた作者も一人であり、そこにもそこはかとない哀感が漂っている。
私自身のこの句の感想
秋になって忘れ去られてしまった鉄の風鈴。吊り下げた本人も他の人ももはやその音を楽しまなくなってしまった風鈴の音に作者はひとり耳を傾けます。季節の移ろいと共に、失われていくものへの哀惜を強く感じる作者は、自らもその寂しさを知り、風鈴に成り代わって感じているようです。
飯田蛇笏の他の俳句
飯田蛇笏について
飯田蛇笏読みは、いいだだこつ。本名は武治。
山梨県生まれ。早稲田大学中退。芭蕉に傾倒して、高浜虚子の指導を受ける。衆生てきて雄勁荘重な工夫を樹立。句集「山蘆集」「山響集」他。