【解説】未確認飛行物体 入沢康夫の詩  

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【解説】未確認飛行物体 入沢康夫の詩

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『未確認飛行物体』は作者入沢康夫の詩です。

教科書にも掲載されているこの詩の情景や技法、作者の伝えたいことを解説します。

未確認飛行物体 入沢康夫の詩

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『未確認飛行物体』の原文をご紹介します。

以下が詩の全文です。味わいながら読んでみましょう。

未確認飛行物体 入沢康夫

薬罐だって
空を飛ばないとはかぎらない。

水のいっぱい入った薬罐が
夜ごと、こっそり台所をぬけ出し、
町の上を、
心もち身をかしげて、一生けんめいに飛んで行く。

天の河の下、渡りの雁の列の下、
人工衛星の弧の下を、
息せき切って、飛んで、飛んで、
(でももちろん、そんなに早かないんだ)
そのあげく、
砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
大好きなその白い花に、
水をみんなやって戻って来る

※他の教科書の詩の解説は
教科書の詩 教材に掲載される有名な詩一覧

 

詩の構成

この詩は口語自由詩の形式で記されています。

※詩の形式については下の記事で確認できます。
詩の形式 種類と見分け方 口語自由詩・文語定型詩など

詩の構成は、3連14行からなっています。

最初の行が2行。次は4行。

最後の連が8行となっています。

それぞれを詳しく見ていきましょう。

詩の題名「未確認飛行物体」の比喩

薬罐だって
空を飛ばないとはかぎらない。

最初の1連目を見ると、この詩の題名「未確認飛行物体」が何かということがわかります。

そう、この物体は薬罐(やかん)ですね。

未確認飛行物体とは

未確認飛行物体というのは、よく聞く言葉だとUFOのことです。

その定義は「正体が確認されていない飛行物体のこと」。

この言葉は最初のUFOの発見された1947年に生まれた新しい言葉なのです。

この詩の表現技法

作者は、やかんを未確認飛行物体になぞらえています。

このような技法を比喩といいます。

他にもこの詩には擬人法も用いられています。その部分は順に解説をしていきます。

「とはかぎらない」の意味

この一連で大切なのは、「とはかぎらない」という部分否定の表現です。

この場合、作者の示していることはどちらでしょうか。

  • やかんは空を飛ぶ
  • やかんは空を飛ばない

作者は「やかんは空を飛ぶ」ことがあるよ、ということをいっています。

作者は物事にある新しい可能性を提示しているのです。

詩の内容は想像

ここを読む人は皆「えっ、どうしてだろう。どういうことかな」と思って、続きが知りたくなります。

それは「やかんは空を飛ばない」と思っているからです。

作者は詩の世界で皆が思っていること、現実とは違うことを最初にあげています。

この「現実とは違うこと」というのが、そう、つまり想像ということになります。

この詩は、つまり、想像の世界を描き出している詩だということがわかりますね。

詩の情景

水のいっぱい入った薬罐が
夜ごと、こっそり台所をぬけ出し、
町の上を、
心もち身をかしげて、一生けんめいに飛んで行く。

2連目では、やかんが空を飛ぶ情景が具体的に描写されています。

やかんが空を飛ぶ情景を5W1Hにしたがってまとめてみましょう。

  • いつ・・・夜ごと
  • どこで・・・ 町の上を
  • 誰が・・・やかんが
  • 何を・・・ 空を飛ぶ
  • なぜ・・・ ???
  • どのように・・・身をかしげて、一生けんめいに

やかんの置かれている状態が上のようであることが示されます。

このうち一番大切なのは「なぜ・・・」の部分です。

これは、ここまでではわかりません。詩の最後になるとわかります。

「心もち身をかしげて」の意味

2連目には「台所をぬけ出し」「心もち身をかしげて」というやかんの動きと動作を表す語があります。

「ぬけ出す」と「身をかしげる」の主語はやかん、「一生けんめいに」も含めてこの部分は 擬人法の表現技法が用いられています。

「身をかしげる」とは、「体を斜めにして」という描写です。

やかんというのは、通常は底を平らなところにおいてまっすぐに立っている状態に置かれています。

詩の情景では、やかんが空に浮いているので、斜めになっているのです。

そしてもう一つ「身をかしげて」の主語はやかんなので、やかんが自分でそうしているというところがポイントです。

つまり、このやかんは、ただ空に飛んでいるだけではなくて、人間のように意志を持っているということが暗示されています。

3連目の前半では、さらにやかんのある空間が広がっていきます。

天の河の下、渡りの雁の列の下、
人工衛星の弧の下を、
息せき切って、飛んで、飛んで、
(でももちろん、そんなに早かないんだ)

「息せき切って」の意味

「息せき切って」の意味は「荒々しく息をすること、激しく呼吸すること 」で、やかんが呼気を荒くしながらも、懸命に空を飛んでいる様子が描かれます。

しかも先ほどの5w1hでいうところの、

  • どこで・・・ 町の上を

はここでは

  • 天の河の下、渡りの雁の列の下、人工衛星の弧の下を、

と3地点に渡って描かれています。

つまり、やかんが長い長い旅をするかのように、今や空ではなくて宇宙レベルの高いところを飛んでいるということが描かれているのです。

「そんなに早かない」に込めた作者の思い

3連目前半の真ん中には、つけたされたような下の一文があります。

(でももちろん、そんなに早かないんだ)

この部分には括弧が加えられています。

どうして括弧なのかというと、これは、作者自身の声なのですね。

本来ならばかぎ括弧で「でももちろん、そんなに早かないんだ」と書かれてもいい部分です。

括弧の詩句の理由

なぜかぎ括弧をやめて普通の括弧なのでしょうか。

それはたぶん、これは作者の発話、つまり口に出して言ったことではなくて、内心で考えたことであるからでしょう。

「天の河の下、渡りの雁の列の下、人工衛星の弧の下を、息せき切って、飛んで、飛んで、」の部分ももちろん作者が書いている作者の想像なのですが、「うん、あんまりすごすぎたかな」と思ったので、(でももちろん、そんなに早かないんだ)とやかんのパワーをちょっとだけ差っ引くような言葉を入れたのです。

宇宙にまで飛んで人工衛星と並んでしまう、パワフルなやかんの様子を述べながら、ちょっと謙遜している作者の思いのように思われます。

やかんの速度がすごく早かったら、”スーパーやかん”になるところですが、そこまでではないよ、ということで、作者がユーモアを添えているのです。

そしてもう一つ大切なのは、「そんなに早かない」と入れることで、人間を越えた飛行能力を持つやかんに、作者は人間味を与えているのでしょう。

やかんが空を飛んだ理由

さて、人間味のあるやかんが空を飛んでいた理由がその次、最後のところに示されます。

そのあげく、
砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
大好きなその白い花に、
水をみんなやって戻って来る

やかんが、「夜ごと」「台所を抜け出し」て、「一生懸命に」「息せき切って、飛んで、飛んで」空を移動していたのは、「砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花」に水を上げるためでした。

なぜって、やかんはその花が大好きだったから。

そのために、やかんは「水のいっぱい入った」そのために重たくなった「身をかしげて」空を飛んでいたのです。

作者の伝えたいこと

この詩で作者の伝えたいことは何かと言うと、最初の一連を思い出せばわかります。

薬罐だって
空を飛ばないとはかぎらない。

普通のやかんは空を飛びません。

けれども、このやかんは、砂漠に咲いて水を欲している大好きな花に水をあげたいと思ったのです。

人の行動力の源泉には、強い愛情と意志がある。それが超常現象にも見える力を引き起こすのです。

それがこの詩で作者の伝えたいことだと思われます。

私自身のこの詩の感想

なんとなく読み始めた詩でしたが、やかんの懸命な様子を想像すればするほど、最後の結末が身に沁みて感じられ、思わず涙が出そうになりました。大好きなものを守りたい、その愛情と献身が「やかん」というユーモラスな物に仮託されるというところに作者のはにかみが感じられます。おそらく、やかんは作者の分身でやかんに起こったことは作者の経験でもあるのでしょう。

入沢康夫について

1931年- 2018年。松江市出身。詩人、仏文学者、宮沢賢治研究の第一人者としても知られる。

東京大仏文科出身。詩作のかたわら明治大教授などを務め、論文や翻訳を多数手掛けた。1966年「季節についての試論」でH氏賞、82年「死者たちの群がる風景」で高見順賞他。日本芸術院会員。宮沢賢治学会イーハトーブセンター初代代表理事。




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