教科書の詩

【解説】わたしを束ねないで 新川和江の教科書の詩

『わたしを束ねないで』は女性の代表的な詩人である作者新川和江の詩です。

教科書にも掲載されている口語自由詩の意味、比喩などの表現技法を解説、作者の思いや伝えたいことを鑑賞します。

『わたしをねないで』は教科書の詩

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『わたしをねないで』の原文をご紹介します。

『わたしを束ねないで』作者新川和江の詩で中学校3年の国語の教科書に掲載されています。

この詩の主題や意味、表現技法について解説していきます。

わたしを束ねないで 全文

以下が詩の全文です。

味わいながら読んでみましょう。

わたしを束ねないで

わたしをたばねないで
あらせいとうの花のように
白いねぎのように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色こんじきの稲穂

わたしをめないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃はばた
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしをがないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦いうしお ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
すわりきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
コンマピリオドいくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく ひろがっていく 一行の詩

※他の教科書の詩の解説は
教科書の詩 教材に掲載される有名な詩一覧

詩の作者

新川和江 しんかわかずえ

1929年4月22日生まれ

茨城県出身の日本の女性の代表的な詩人です。

現在の年齢は93歳となっています。

 

詩の構成

詩は5連30行からなっています。

各段の行は6行です。

詩の形式

詩の形式は 口語自由詩 です。

※詩の形式については下の記事で確認できます。
詩の形式 種類と見分け方 口語自由詩・文語定型詩など

 



詩の表現技法 解説

この詩で用いられている表現技法は下の通りです

  • 比喩(直喩・隠喩)
  • 体言止め
  • 擬人法
  • 反復法
  • 対比

比喩

この詩では、隠喩と直喩の両方の比喩が用いられています

隠喩の部分

あらせいとうの花のように
白いねぎのように

この部分は比喩です。

「ように」が付く比喩は「隠喩」というものです。

直喩の部分

わたしは稲穂

の部分は、私は稲穂のような(人)という比喩で、「ような」がないので、直喩という比喩の技法です。

「わたしは羽撃はばたき」「私は海」わたしは風 わたしは終わりのない文章の各連の表現も同様です。

 

反復法

「・・・しないで」他は、同じ形が繰り返されています。

これは反復法という詩の技法のひとつです。

体言止め

体言止めは、文章の最後が名詞で終わるものです。

わたしは稲穂 わたしは羽撃はばたき わたしは海 わたしは風 わたしは終わりのない文章

の他、各連の終わりの

    • 見渡すかぎりの金色こんじきの稲穂
    • 目には見えないつばさの音
    • 泉のありかを知っている風
    • はてしなく流れていく
    • 拡ひろがっていく 一行の詩

の部分は、行の終わりが名詞であり、いずれも体言止めが用いられています。

擬人法

擬人法は、人でないものが主語となり、人のように表すという表現です。

「大地が胸を焦がす」「こやみなく空のひろさをかいさぐっている」

大地⇒焦がす

羽ばたき⇒かいさぐる

など、意思のない事物が主語となるこれらの表現が擬人法に当たります。

対比

「わたしを束たばねないで」に対して、

  • 束ねられているもの
  • 束ねられていないもの

がそれぞれ続きます。

束ねるものとして作者があげているのが

  • あらせいとうの花
  • 白い葱ねぎ

です。

束ねられないものとしてあげられているのが

  • 見渡すかぎりの金色こんじきの稲穂
  • 苦い潮うしお
  • ふちのない水

です。

同じように各段の対比を探してみましょう。

各連の6行目は、「ください わたしは○○」となっていて、「ください」のあとは改行がなされていませんで、「私は○○」が一行で続けられています。

例:

1連目 束ねないでください わたしは稲穂

2連目 止めないでください わたしは羽撃き

これはなぜでしょうか。

作者は「しないでください」といって、その前のイメージを素早く打ち消して、「稲穂」だったり「羽ばたき」である新しい自分のイメージを続けている。

束ねられる葱や、絵葉書をあげながらも、そのマイナスを伴うイメージをすぐに訂正して、本来の自分のイメージを表示する、そのような作者の意志がうかがえる、詩の表記の仕方です。

詩は、必ずしも比喩他の表現技法だけでなく、このような言葉の配置や行替えにおいても、はっきりと糸が感じられるような表現がなされています。

これらの表現にも目を向けてみましょう。



詩の主題

「私を束ねないで」は 「私を束縛しないで」の意味であり、自由が大きなテーマとなっています。

作者は、世界を空や大地、海に例えて、そのような広いところに、まんべんなく広がる畑の稲や、枠に収めららえないものとしての自分をイメージして訴えています。

2連目では、昆虫や絵葉書の方にピンで一か所に留められるのではなく、動的な羽の動きに自分をイメージし、さらにその自分のいる広い空であると表現しています。

3連目ではコップの中の薄い牛乳やぬるい酒といった魅力のない飲み物に対比して、容れ物の中に入っているのではない液体、海の潮、つまり海の水に自分を例えているのです。

作者の思い

作者の思いが最も具体的になるのが、4連目です。

娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐すわりきりにさせないでください

この部分は、作者の社会的な役割、アイデンティティーである「娘」「妻」「母」の呼び名をあげて、その役割に自分を「坐りきりにさせないで」、つまり、固定しない自分のあり方を訴えています。

5連目にあるのは、詩とそれ以外の文章の対比です。

,コンマや.ピリオドいくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章

作者は短い文章、終りのある手紙としてそこで止まってしまうこと、終わってしまうことを良しとせず、果てしなく続く詩に自分を例えています。

この詩の視覚イメージは、改行があるものではなくて、一行の詩です。

川の流れのように、ずっと横に長く続いていって終りのないもの、それが自分だと作者はイメージしているのです。

 

作者の思いをまとめると

自分をつまらないものであるように扱ってほしくない、自分は自由でいたい、思うように行動したい、可能性を制限されたくない、女性として枠にはめられたくない

というような希望があげられます。

私自身のこの詩の感想

作者は93歳、まだ職業に就く女性が珍しく、自立や自活とは程遠かった時代に若い時を過ごされた方です。そのような時代にこの詩を作る作者は大変に意志が強く、自意識が高かったと思われます。詩の中に主張があるということそれ自体が珍しいのですが、それでも後のウーマンリブやフェミニズムのような声高な表現はとられておらず、あくまで詩的な柔らかい主張であるところに注目をすべきでしょう。

この詩の内容以上に注目すべきは次々に繰り出される比喩の美しさです。「束ねないで」と否定された「アラセイトウの花」にしても「白い葱」にしても、そこに言葉が置かれただけでなんとも新鮮な息吹が感じられるような表現となっています。「私を束ねないで」に始まる詩の全体の言葉がとても美しい。「

私を束縛しないで」「私を制限しないで」と言わずに「束ねないで」という柔らかい言葉を選んで、それをタイトルとしたところにこの詩のすべてが集約されていると言えるでしょう。

新川和江について

新川和江 しんかわかずえ 詩人。1929年、茨城県結城生。高等女学校在学中より西條八十に師事。1983年から1993年まで吉原幸子とともに「現代詩ラ・メール」誌を主宰、女性詩人の活動を支援した。詩集に『ローマの秋・その他』(室生犀星詩人賞)、『ひきわり麦抄』(現代詩人賞)他、現代を代表する女性の詩人として有名。




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