かんがへて飲み始めたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ 若山牧水は酒と旅の歌人と呼ばれるくらい、酒の歌を多く詠んでいます。
若山牧水の短歌の現代語訳と意味、解説と鑑賞を記します。
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かんがへて飲み始めたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ
読み:かんがえて のみはじめたる いちごうの にごうのさけの なつのゆうぐれ
作者
若山牧水
現代語訳
考えて飲み始めた酒だったが、いつか1合が2合となっていく夏の夕暮れであるよ
解説
明治45年5月の(1912)妻貴志子と結婚後の歌とされている。
若山牧水は当時26歳。
その前の恋愛に敗れた後の結婚ではあったが、それほど遅かったというほどではないだろう。
結婚後の同時期の歌には他に
まづしくて蚊帳なき家に三つ二つ 蚊の鳴き出ぬ添ひ臥をする
がある。
妻への遠慮もあり、さらに牧水に結婚式を挙げる金がなかったというのであるから、そのため節制をしようと考えていたのかもしれない。
鑑賞
迷いながら量を少なくまずは1合だけを飲もうと思って飲み始めた酒だったが、2合となってしまったという意味のおもしろい歌。
結句の「夏のゆふぐれ」は、これもまた飲酒の弁解のようにも思われるが、いかにも飲みたくなるような夏の夕べであるということなのだろう。
もっとも、牧水には秋の酒の歌で有名な「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ」もある。
季節はいつでもいいのだがこの結句には何となく納得してしまうのは、やはり歌の技巧のためだろう。
解説記事:
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ 若山牧水の秋の短歌二首
「かんがへて飲み始めたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ」
「かんがへて」は、漢字を交えずひらがなとなっており、いかにも頭で考えたということらしい初句となっている。
「かんがえて飲みはじめたる」は、飲酒の行程の最初の部分を指していて、一首には時間の経過が含まれている。
反復と省略
「一合の二合の」の反復には大きな省略があり、「一合と思ったはずの酒が二合となった」という意味のようである。
それを「一合の二合の」とすることで立て続けに杯を重ねて量が増えていった様子を表している。
結句の「夏のゆふぐれ」は、夕方に飲み始めたのではなく、飲んでいるうちに夕方になってしまったという時間を表している。
実際には二合どころではなかったのかもしれないが、気が付くと庭が暮れ始めているという気づきをも表している。
若山牧水と酒
若山牧水は酒と旅の歌人といわれるくらい、有名なのは旅の歌である一方で、酒の歌も多く詠んでいる。
生涯で詠んだ短歌の数が8600首、そのうち367首が「酒の歌」ということで生活と切り離せないものになっていたようだ。
若山牧水と酒
若山牧水の好んでいたのは日本酒で、朝1合、昼2合、夜は6合、つまり、一日一升近くを飲んでいたと伝わっている
若山牧水の死因は肝硬変で、医者には酒を止められていたが、おそらくアルコール依存症だったのだろう。
止められずに命を縮めてしまったのだが、天才は自らの弱点をも作品化する。
若山牧水が旅に出かけなかったら、名作も生まれなかった。
それと同じように、しかしそれとはまた違った面で、酒がなかったら牧水には歌も生まれなかったに違いない。
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