大きなる都会(とくわい)のなかにたどりつきわれ平凡(へいぼん)に盗難(たうなん)にあふ 作者斎藤茂吉。
きょう10月7日の日めくり短歌「盗難防止の日」は、盗難と「盗」がテーマの短歌をご紹介します。
盗難防止の日
スポンサーリンク
10月7日は、「10」と「7」の語呂合わせから、一般社団法人・日本損害保険協会が2003年(平成15年)によって、盗難防止の日に制定されています。
盗難被害を防ぎ、その犯罪をなくすことが目的です。
「盗難」が詠まれた短歌があるのかというと、真っ先に思い出すのがその言葉通りの斎藤茂吉の下の短歌です。
大きなる都会のなかにたどりつきわれ平凡に盗難にあふ
読み:大きなる都会(とくわい)のなかにたどりつきわれ平凡(へいぼん)に盗難(たうなん)にあふ
作者と出典
斎藤茂吉
歌集「つゆじも」
解説
歌の意味はそのまま、たどり着いた大都会で盗難に遭ってしまったが、そのような都会では平凡なことだと述べられています。
作者斎藤茂吉自身の詞書の記載によると
十二月二十七日、ハンブルグに行き老川茂信氏に会ふ。帰途の汽車中にて信用状の盗難に遭ひ困難したるが、信用状大使館に届き、謝礼三五〇〇麻克にて結末を告ぐ (「つゆじも」詞書)
とあり、ハンブルクで盗難に遭ったことがわかります。
「信用状」とはパスポートの類の物でしょうか。おそらく現金は抜き取られたものの、誰かが届けてくれたのを大使館で受け取れたということで、その後無事新年を迎えられたようです。
27日と言えばクリスマスの次の日であり、このような盗難が横行していたのかもしれません。
盗難といえば、盗まれる方のことですが、作者が盗む方の立場に立つ歌もあります。
盗むてふことさへ悪しと思ひえぬ/心はかなし/かくれ家もなし
読み:ぬすむてう ことさえわるしとおもいえぬ こころはかなし かくれがもなし
作者と出典
石川啄木
歌集「一握の砂」
解説
石川啄木は殺人や盗みなどのマイナーな感情も歌に表しています。
その理由はあまりにも貧しかったからでしょう。
盗むのが悪いとは思えない、そのような自分の心が悲しい。そのような自分が恥ずかしく思わず隠れたいと思っても、隠れる家さえもない
との意味です。
これらの恥ずかしいと思えるような感情さえも、短歌なら表すことを許される。
啄木にとって、短歌は一種の隠れ家であったかもしれません。
関連記事:
『一握の砂』石川啄木のこれだけは読んでおきたい短歌代表作8首
われの一生に殺なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は
読み:われのひとよに せつなくとうなく ありしこと ふんぬのごとし このかいこんは
作者:
坪野哲久(つぼのてつきゅう)
解説
坪野哲久の中でも有名な歌です。
穏やかに過ぎた一生をよかったというのではなくて、それに強い悔恨をおぼえるというのです。
この歌が有名であるということは、この歌が多くの人に共感を引き出す歌であるというところに驚きを感じない人はいないでしょう。
これにやや似た歌として塚本邦雄の下の歌
水に卵うむ蜉蝣よわれにまだ惡なさむための半生がある
こちらも先の坪野の歌に影響を受けた歌かもしれませんが、上句に情感があります。
関連記事:
塚本邦雄の短歌代表作5首
きょう10月7日の日めくり短歌は「盗難防止の日」の日にちなみ、盗難と盗の短歌をご紹介しました。
日めくり短歌一覧はこちらから→日めくり短歌