「それだけでいい」【解説】杉みき子の詩の主題と表現技法  

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「それだけでいい」【解説】杉みき子の詩の主題と表現技法

2024年3月10日

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「それだけでいい」は、作者は詩人杉みき子の詩作品で、国語の教科書に掲載されています。

「それだけでいい」の詩の表現技法、詩の種類と作者が伝えたいことをまとめます。

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「それだけでいい」の作者と出典

題名:それだけでいい

作者:杉みき子

出典:『杉みき子選集10 ささやかなあいさつ』

「それだけでいい」は作者杉みき子。

美しくも平易な言葉で自然の美しさ、そして希望の大切さを讃える詩です。

 

「それだけでいい」全文

杉みき子の詩「それだけでいい」の全文です。

「それだけでいい」 杉みち子

山は そこに見えているだけでいい
冬は純白の 夏はみどりの頂が
遠い遠い空のはてに いつも見えているだけでいい

海は そこに輝いているだけでいい
白い船を泳がせ かもめの群を遊ばせ
長い長い道のはてに いつも輝いているだけでいい

星は そこにあるだけでいい
雲に覆われるときも 雨に隠されるときも
いつも確かにそこにあると わかっているだけでいい

希望は 心にあるだけでいい
目には見えなくても 手にはとどかなくても
希望というものが この世の中にあると信ずる
信じ続ける

それだけでいい

この詩の形式や表現技法について見ていきましょう。

「それだけでいい」詩の形式と種類

「それだけでいい」の詩の形式から解説します。

  • 5連の詩
  • 口語自由詩

詩の形式は5連構成

「それだけでいい」は5連構成の詩

詩の行のまとまりを「連」といいます。

この詩は5連で構成されています。

詩の種類は口語自由詩

「それだけでいい」は口語自由詩

この詩は、古い言葉である文語ではなくて、現代の言葉である口語で書かれています。

このような詩を「口語詩」といます。

また、短歌や俳句などのような字数の決まりがありません。

このような詩を「自由詩」と言います。

関連記事:
詩の形式 種類と見分け方 口語自由詩・文語定型詩など

「それだけでいい」の表現技法

この詩の表現技法は以下のようなものがみられます。

  • 1~4連は3行で統一されている
  • 「~は」の主語で始まる
  • 「~だけでいい」の繰り返しがある
  • 1~4連は対句を含み反復がある
  • 最後の一連に題名と同じ句が含まれる

1~3連は3行で統一されている

3連までは3行で統一されています。

時間的な感覚である詩の韻律、視覚的にも詩の特徴が伝わります。

4連は一行多い

対して、4連目は1~3連に比べると一行多くなっています。

さらに、最後の5連目は一行だけです。

この違いはこの下に解説します。

「~だけでいい」の繰り返し

この詩の大きな特徴として「だけでいい」の繰り返しが、全5連に共通して見られます。

「だけでいい」は、詩の題名「それだけでいい」にも含まれる句です。

それによって、詩としての韻律と統一感が生まれています。

同時にそれは作者の意志、思いの強さでもあります。

例:

山は そこに見えているだけでいい
冬は純白の 夏はみどりの頂が
遠い遠い空のはてに いつも見えているだけでいい

海は そこに輝いているだけでいい
白い船を泳がせ かもめの群を遊ばせ
長い長い道のはてに いつも輝いているだけでいい

(後略)

「~は」の主語で始まる

各連の始まりは「は」の助詞で統一されています。

例:

山は そこに見えているだけでいい

(中略)

海は そこに輝いているだけでいい

(後略)

同じものを並べることを対句と言いますが、各連の最初の行は対句で構成されています。

対句とは

対句とは、中国文学の修辞的技巧のひとつで、2つの句の対応する文字どうしが同一の品詞に属するように文を作ること。

最後の一連に題名と同じ句が含まれる

この詩は「それだけでいい」で始まります。

そして「それだけでいい」の題名と同じ句で終わります。

作者の表したいことは最初から示されており、最後の句に再び集約するという循環の構図を示しています。

始まって終わる。終わりは始まりに戻る、作者の表したいこと、主題は一貫して変わっていないのです。

この詩で作者が言いたいことは「それだけでいい」ということなのです。

「それだけでいい」の主題

それでは、「それだけでいい」の「それ」の指し示すものは何でしょうか。

この指示代名詞、作者が「それ」というところに、詩の主題がありそうです。

詩の主題についてみていきましょう。

主語の違い

この詩は「山は」「海は」「星は」と始まります。

これらはすべて目に見える実物です。

しかし、その後の「希望」は、「目には見えな」いもの、実体ではなく内面的なものです。

ここまでを読むと、この詩で作者の述べたいことは、山や海ではなく、むしろ人が内面に持つものの方、「希望」についてであることがわかるでしょう。

実体と精神的な物との対比

山や海がそこにあることを疑う人はいません。

なぜかというと、これらは目には見えるものだからです。

しかし、「希望」は目には見えないものです。

なので作者は「それがある」ではなくて、それが「この世の中にあると信ずる」としています。

作者が信じることで初めて実体化する、それが「希望」です。

4連目の主語は「私は」

この「信ずる」の主語は、作者自身「私は」です。

1~3連で「山は」「海は」「星は」であったものが、ここで「私は」に転じています

これは大きな変化であることを感じとりましょう。

4連目の構成の違いと効果

作者は、さらに「信じ続ける」と、それまでの「山」や「海」の3行に対して、一行多く詩の行を配置しています。

それまでの3行に対して、一行長いことで、それまでの反復のリズムが壊れてしまいます。

すらすら読んでいたものが、そこだけ突っかかるのです。

その結果「信じ続ける」が強調されることとなります。

強調を生み出すもの

「信じ続ける」はそれまでの3行より多いために、強調されて読者に伝わるという効果があるのです。

つまり、それまでの反復と一連3行の統一は、詩に統一感を持たせる効果がありますが、それと同時にここで、その統一感を破ることによって、強調を生み出しています。

強調された連

同時に、作者が言いたいことは、この強調された部分、「信じ続ける」と、その連全体にあることがわかります。

あらためて4連目を読み直してみましょう。

希望は 心にあるだけでいい
目には見えなくても 手にはとどかなくても
希望というものが この世の中にあると信ずる
信じ続ける

「希望を信じること、信じ続けること」これがこの詩の主題となります。

「それだけでいい」の感想

ここからは「それだけでいい」の私自身の感想を記します。

「それだけでいい」の詩の中で作者の描写する「山」や「海」「星」の特性はとても美しく、希望がそれ以上に美しく大切なものだと気づかされました。

タイトルの「それだけでいい」と最後の行が同じであるところは、まるで、空と海の空間性、昼と夜の時間性を循環して、円のように最初の命題に回帰するイメージがあります。

作者が「それだけでいい」と言っているのは、希望を信じることの大切さです。

景色を見るものは作者自身であり、作者は世界に存在するものとその在りようをそのまま受容しています。

ただ、希望のみは人の心にあるものです。希望は人に語られることによって、初めて存在するものです。

さらに「信ずる」「信じ続ける」という作者は、むしろ人生に希望を維持することの難しさをも感じており、それだけに希望の大切さを訴えているように思えます。

 

杉みき子について

杉 みき子(すぎみきこ、1930年12月25日 - )は新潟県上越市出身の児童文学作家である。 本名は小寺佐知子。 日本児童文学者協会会員。 [来歴・人物] 長野県女子専門学校(現・長野県短期大学)を卒業後、電気工事会社に勤務し、新潟日報社の読者応募欄に掲載、1957年「かくまきの歌」で第7回児童文学新人賞(現・日本児童文学者協会新人賞)を受賞した。 -フリー百科事典Wikipedelia 「杉みき子」より

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