春の夜のやみはあやなし梅の花色こそ見えねかやはかくるる
凡河内躬恒(おほしかふちのみつね) の古今和歌集所収の有名な和歌、現代語訳と係り結びを含む修辞法の解説、鑑賞を記します。
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春の夜のやみはあやなし梅の花色こそ見えねかやはかくるる
現代語の読み:はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそ みえね かやはかくるる
作者と出典
作者:凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
出典:古今集 春上・四一
現代語訳と意味
春の夜の闇はわけのわからないものだ。梅の花は、確かに姿は見えないけれど、その香りだけは隠れるものだろうか、隠れはしない
句切れと修辞法
・2句切れ
※文中2か所の係り結び
●「こそ…見えね」→係り結びの逆説
●「や…隠るる」→係り結びと反語
※関連記事:
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
語と文法
- あやなし…名詞「あや」+形容詞「無し」
- あや…筋道。道理。理由
「見えね」の品詞分解
・見え…基本形「見ゆ」の連用形
・ね…打消しの助動詞「ず」の已然形→ 係り結びの逆接 以下に解説
「香やは隠るる」の品詞分解
・香やは…読みは「かや」。「や」は反語を表し、係り結びを構成する。「は」は格助詞
・隠るる…係り結びのため已然形
※関連記事:
反語を使った表現 古文・古典短歌の文法解説
解説と鑑賞
凡河内躬恒の代表的な和歌作品の一つ。
古今集 春上の 梅の花を詠んだ17首の中にある歌。詞書に「春の夜、梅の花を、よめる」との詞書がある。
梅の花の香りを詠んだ2首連続の2首目の歌。
歌の意味
「あやなし」は夜の闇の暗さと、闇のおぼつかなさを強調した言葉で、それによって梅の香りの強さを誇張して表現している。
さらに、夜の闇と対照することによって、梅の花の白さを浮かび上がらせる視覚的な効果も生じている
係り結びの逆接
下句の「色こそ見えね」は、係り結びの逆接で、文中に置かれ、「花は見えないが」、その後にさらに結句が続く。
解説
係り結び2と反語
「香やは隠るる」部分も係り結び「や…るる(已然形)」
反語の「や」は「香は隠れるものだろうか…いや、隠れない」という結論で、梅の香りが強いことを強調して表している。
この歌の前の類似の歌 「梅の花」がテーマの17首
この一首前の歌が
月夜にはそれとも見えず梅の花かをたづねてぞしるべかりける
意味は「月夜には、白い光にまぎれて梅の花の見分けがつかない。梅の花はその美しい香りを探し訪ねてこそ、そのありかを知ることができるのだ。」
さらに、その前にも闇に花の香を詠む同じモチーフの38番の紀貫之作の
梅花にほふ春べはくらふ山やみに越ゆれど著(しる)くぞありける
意味は、「梅の花がにおう春は、暗い山を闇の中にこえるけれども香りではっきりとわかる」
といずれも、梅の花の香りをつあったもの。
凡河内躬恒の他の歌
春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる(古今41)
雪とのみ降るだにあるを桜花いかに散れとか風の吹くらむ(古今86)
花見れば心さへにぞうつりける色には出でじ人もこそ知れ(古今104)
住の江の松を秋風吹くからに声うちそふる沖つ白波(古今360)
凡河内躬恒はどんな歌人
凡河内躬恒 (読み:おおしこうちのみつね ) 生没年不詳
平安時代中期の歌人。三十六歌仙の一人、『古今和歌集』の撰者。紀貫之(つらゆき)につぐ60首の歌がとられている。
感覚の鋭い清新な歌風で叙景歌にすぐれ、即興的な歌才に優れていたことをうかがわせる。
四季歌を得意とし、問答歌などでは機知に富み、事象を主観的に把握して、平明なことばで表現するところに躬恒の特長がある。