窪田空穂は大正、昭和を代表する歌人の一人で、その作品は国語の教科書や教材にも収録されています。
窪田空穂の短歌代表作品をご紹介します。
窪田空穂の短歌代表作品
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国語の教科書でもおなじみの窪田空穂の短歌代表作品と言えば、下の短歌が大変有名です。
鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか
読み:かねならし しなののくにを ゆきゆかば ありしながらの ははみるらんか
作者と出典
窪田空穂『まひる野』
現代語訳と意味
巡礼となって信濃の故郷を巡り巡ったならば、在りし日のままの母に会うことができるだろうか
解説
窪田空穂の代表作品の一つ。
たいへん有名な秀歌といえます。
内容は短歌で馴染みのテーマである母恋いの歌です。
解説記事:
鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか 窪田空穂
鳴く蝉を手握り持ちてその頭をりをり見つつ童走せ来る
読み:なくせみを たにぎりもちて そのあたま おりおりみつつ わらわはせくる
作者と出典
窪田空穂 『鏡葉』
現代語訳と意味
鳴く蝉を手に包み持ち手からのぞいたその頭を時々眺めながら、子どもが急いで走ってやってくる
解説
蝉を見つけて喜ぶ子どもの様子がそのままに詠まれている。
蝉をおそらく初めて捕まえた子供なのだろう、父親に見せようと持ち帰って喜んで走って来る時の様子を表している。
「鳴く蝉」は蝉の様子と共に、その鳴き声にまず作者自身が注意を引かれて目を向けたのだろう。
解説記事:
鳴く蝉を手握り持ちてその頭をりをり見つつ童走せ来る 窪田空穂
麦のくき口にふくみて吹きをればふと鳴りいでし心うれしさ
作者:
窪田空穂 歌集「濁れる川」
現代語訳:
麦の茎を口に含んで吹いていると、不意に音が鳴り出した時の心のうれしさよ
解説
年長の子どもに倣って、麦笛を試してみたが、最初は息の音しかしない。
それが、不意に笛の音として鳴った、その瞬間の喜びを回想して詠ったもの。
解説記事:
麦のくき口にふくみて吹きをればふと鳴りいでし心うれしさ 窪田空穂
其子等に捕らへられむと母が魂蛍となりて夜を来たるらし
読み:そのこらにとらえられむとははがたまほたるとなりてよをきたるらし
解説:
妻を亡くした窪田空穂が蛍と二人の幼い子どもたちを見て詠んだ歌もまた、美しくも悲しい歌である。
親といへば我ひとりなり茂二郎 生きをるわれを悲しませ居よ
出典は歌集「冬木原」。
作者窪田空穂は、シベリアに抑留された次男、茂二郎が戦死したという知らせを受けます。
その悲嘆の気持ちを現したのが上の歌です。
解説記事:
窪田空穂の家の歌
以下は窪田空穂の家とその周辺の路地を詠んだ歌です
長き小路あゆみ来りて曲らむと見かへれば蒼し鎌倉の海
鎌倉を訪ねた居りの歌。
窪田空穂は路地とその先の我が家の風景を愛着を持ってたくさんの歌に詠んでいます。
目白台北の傾斜の雜司ケ谷細き路地ありその奧に住む
作者は小路の奥に住んでいたようです。
うなだれて来つる小路に籬(まがき)洩りかがやき咲けり山吹の花は
気持ちが沈んだ時にも小路に見える花に慰められます。
この露地の東の果ての曲りかど茂二郞生きてあらはれ来ぬか
戦死した次男を歌った作品。
子どもを路地に迎えたことが何度もあったので忘れられないのでしょう。
帰り来し貧しき路地の親しさよ見えぬ笑みあり笑み返さしむ
家の中以上に、路地には常に子の幻影が作者には感じられます。
わが家にも人生(うまれ)れ死に一筋の片岨(かたそば)路地の静かに長き
そして、家と家族の歴史はこの路地と共にある。
家というのが建物のみでなくて、家のある路地の風景と共に捉えられていることがわかります。