10日に訃報が伝えらえた歌人の岡井隆さんの短歌代表作品の中から、第一歌集の『斉唱』から、初期の相聞歌「 約しある二人の刻を予ねて知りて天の粉雪降らしむるかな」をお伝えします。
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約しある二人の刻を予ねて知りて天の粉雪降らしむるかな
作者は岡井隆さん。第一歌集『斉唱』より。
意味は、恋人と会う、その時に合わせたように雪が降ってくる。
それを「天」を擬人化して、「その刻を知っていて、雪を降らせてくれたのだなあ」と詠嘆します。
気象の変化をもただの偶然とはとらえずに、自分たちだけではなく、もっと大きな事象、大いなる第三者がそれを祝福してくれているとして、その多幸感と万能感を表しています。
映画のワンシーンのような、映像的にも美しい一首です。
※日めくり短歌一覧はこちらから→日めくり短歌
岡井隆の初期の相聞歌
岡井隆さんの初期歌集『斉唱』は、みずみずしい相聞歌が特徴です。
以下に、いくつか挙げてみましょう。
灰黄(かいこう)の枝をひろぐる林見ゆ亡びんとする愛恋ひとつ
あわあわと今わ湧いている感情をただ愛とのみ言い切るべしや
抱くとき髪にしめりの残りゐて美しかりし野の雨を言ふ
歩みつつ髪束ねいる指の動き見ているときの淡き恥(やさ)しさ
岡井隆について
岡井隆さんはアララギ出身で、その後、塚本邦雄と共に、前衛短歌運動を展開。
後に、宮中歌会始の選者としても活躍しました。
朝日新聞にあげられた代表作短歌は他に
父よ父よ世界が見えぬさ庭なる花くきやかに見ゆという午(ひる)を
キシオタオ……しそののちに来んもの思えば夏曙のerectric penis
今日の日めくり短歌は、ニュースで訃報が伝えられた岡井隆さんの短歌を紹介しました。
他の岡井隆さんの短歌代表作品については、この後の別記事で紹介しています。
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斎藤茂吉「歌集『ともしび』とその背景」岡井隆著