「雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ」万葉集の有名な恋の和歌より、雷の詠まれた短歌の問答歌、一連２首をご紹介します。
この歌は新海誠監督の映画「言の葉の庭」にも登場した和歌です。
今日の日めくり短歌はこの「なるかみの」の問答歌をご紹介します。
スポンサーリンク
雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ
読み：なるかみの しましとよみて さしぐもり あめもふらぬか きみをとどめん
作者と出典
『万葉集』 巻十一 柿本人麻呂歌集より
作者は不詳
雷神（なるかみ）の少し響（とよ）みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ 万葉集雷と恋の歌【日めくり短歌】映画「言の葉の庭」 #万葉集 #短歌 https://t.co/FfYrUiDlHv pic.twitter.com/Hpe9EJzjFk
— まる (@marutanka) September 14, 2020
万葉集関連記事：
万葉集の恋の和歌３０首（１）額田王,柿本人麻呂,大津皇子,石川郎女
雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ の短歌
この最初の「雷神」は「なるかみ」と読みます。
この歌の意味は、
「雷が少し響いて空が曇ってきた。雨が降ってくれないだろうか。あなたをここに留めたいから」
というもの。
雷が鳴ったところで、束の間の逢いの名残惜しい気持ちを雷と雨に託して表したのですね。
雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむの意味
各言葉の意味は上の画像の通りです。
以下に詳しくみていきましょう。
「雷神」は雷のこと
「雷神」は、これは「なるかみ」と呼んで、雷のこと。
「神」が付いていても神のことではありません。
「雷様 かみなりさま」と同じ表現だろうと思います。
私の親類の郷里では雷のことを「らいさま」と呼んでいました。
「様」と擬人化されていますが、雷の親しみを込めた呼び名と思われます。
「響みて」の意味
「響みて」の読みは「とよみて」。
動詞の基本形は「とよむ」。「音が鳴り響く」の意味。
「少し響みて」は、「少し雷が響いて」ということです。
「さし曇り」の「さし」は接頭語
「さし曇り」の「さし」は接頭語というもので、動詞に付いて、意味を強めたり語調を整えたりします。
よって、「雷が少し響いて曇ってきた」がその意味です。
「雨も降らぬか」の願望
意味は分かりますね。「雨が降らないだろうか」という願望です。
「雨も」の「も」は、たとえば「雨も雪も」と同じ意味の「も」ではなくて、この場合は強意、協調の「も」。
「も・・・ぬか」で願望を表します。
「雨が降ってこないだろうか」ではなくて、「雨が降ってきてほしい」という意味となります。
「も・・・ぬか」の意味
辞書の定義だと
ぬか〘終助詞〙 ある事態の生ずることを願う意を表わす。…てくれでもしないかなあ。…であってほしい。
となり、これは万葉集に特有の表現です。
ところで、なぜ雨が降ってきてほしいのか、歌の詠み手の願望する理由はというと、その下の部分にあります。
歌の句切れ
ちなみに、「雨も降らぬか」の「か」は疑問を表す助詞で、短歌はいったんここで切れます。
これを短歌の句切れと言います。
「君をとどめむ」の意志
雨が降ってほしい理由はそうすると、相手である君、思い人と別れずにいられるからですね。
最後の「む」は発音の読みは「ん」と読みます。
よって、この部分の読みは「きみをとどめん」となるわけです。「む」は未来の意志を示す助動詞です。
「雨が降ると君と別れずに済む。そうさせよう」
というのがこの部分の意味です。
雷神の問答歌の返歌
この雷神の歌は、短歌が二首組み合わせとなる「問答歌」というものです。
ここまでが最初の歌で、それに応える歌が下の歌
雷神の少し響みてふらずとも吾は留らむ妹し留めば
読み：なるかみの しましとよみて ふらずとも われはとどまらん いもしとどめば
一首の意味
こちらの一首の意味は、
「雷が少し響いて雨が降らなくても私は留まろう。あなたが望むのであれば」
というもの。
上2句が、最初の歌と同じ句となっているのがわかりますね。
最初の歌と同じにすることで、相手の気持ちをそのままなぞっているということがわかります。
歌詞でいえば1番と2番のようなものです。
最初の歌の人称は「君」、2首目が「妹」ですので、先の詠み手が女性で、あとに応える歌の方が男性です。
古代は通い婚であったので、女性の元に男性が通うという習慣でした。
なので、別れ際に男性を見送りながら、空を見上げて訴える女性の気持ちに男性が応えたものと想像もできます。
※問答歌の部分の詳しい解説は最新記事に
「言の葉の庭」を無料で見る
この２首は、新海誠監督の映画「言の葉の庭」において紹介されました。
万葉集の引用がふんだんにあるアニメーションの映画で映像がすごくきれいです。
アマゾンプライムなら無料で『言の葉の庭』が見られます。
登録は無料で30日間は見放題なのでおすすめです。
きょうの日めくり短歌は、新海誠監督の映画「言の葉の庭」に登場する万葉集の雷の短歌をご紹介しました。
それではまた明日！
日めくり短歌一覧はこちらから→日めくり短歌