『言の葉の庭』は新海誠監督の映画で、その中に引用された短歌は日本最古の万葉集の和歌です。
言の葉の庭の短歌を紹介、意味について解説します。
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『言の葉の庭』の映画
映画『言の葉の庭』は、新海誠監督が初めて手がけたラブストーリーを描いた作品です。
梅雨の季節に出会った15歳の少年と、年上の27歳の女性をめぐるドラマが美しいアニメーションで描かれます。
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『言の葉の庭』の短歌
この『言の葉の庭』の中で用いられた短歌が話題となりました。
使われた歌は下の二首です。
雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ
雷神の少し響みてふらずとも吾は留らむ妹し留めば
万葉集の和歌から
恋愛の気持ちを伝える歌として用いられましたこの歌は、万葉集の中にある和歌なのです。
万葉集は、元号「令和」の原典となる大伴旅人の「梅花の歌」の序文を含む日本でいちばん古い歌集です。
万葉集の問答歌
さらにこれらの歌は、和歌が二首組み合わせとなる「問答歌」というものです。
最初の歌の「雷神の少し響みてさし曇り・・・」に対して、下の歌がその返歌となっていて、2首組み合わせとして鑑賞をするものです。
2つの歌にどのような問いと答えがあるのか、それぞれの歌の意味を見ていきましょう。
雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ の解説
この最初の「雷神」は「なるかみ」と読みます。
作者と出典
『万葉集』 巻11-2513に収録されていますが、作者は不詳です。
和歌の読み
全体の読みは
なるかみの しましとよみて さしぐもり あめもふらぬか きみをとどめむ
となります。
語句の意味
なるかみは 雷のこと。
「とよみて」は「響いて」の意味で、「雷が鳴ったので雨が降らないかな」というのが、4句目の意味です。
歌の意味と現代語訳
さて、上までで察しがついたと思いますが、この歌の全体の意味は、
「雷が少し響いて空が曇ってきた。雨が降ってくれないだろうか。あなたをここに留めたいから」
というもの。
雨が降ると昔は今のようなカサがなかったので雨宿りをしなければならない。
そうすると、あなたとずっと一緒にいられるから、というのが歌の意味です。
雷がたまたま鳴ったところで、束の間の逢瀬のなごり惜しい気持ちを雷と雨に託して表した歌です。
雷神の少し響みてふらずとも吾は留らむ妹し留めば の返歌
上の歌の返歌が上の歌です。
短歌の読み
なるかみの しましとよみて ふらずとも われはとどまらん いもしとどめば
現代語訳
こちらの一首の意味は、
「雷が少し響いて雨が降らなくても私は留まろう。あなたが望むのであれば」
というものです。
問答歌とはっきりわかるように最初の部分「なるかみの すこしとよみて」までは共通しています。
最初の歌が、「雨が降ったらいいのに」と対して、こちらは「雨が降らなくても」と答えています。
「妹(いも)」というのは、親しい女性に呼びかける呼称なので、最初の歌が女性が詠んだもので、次の歌が男性が答えたものです。
つまり、一対の男女が歌で気持ちをやり取りした歌なのですね。
※両方の歌の文法解説は
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雷神の少し響みてさし曇り雨もふらぬか君を留めむ 雷と恋の短歌
問答歌の特徴は
これらの歌の問答歌の特徴はどのようなところにあるのかというと、上の図のようになります。
「雷神の少し響みて」は同じ
「雷神の少し響みて」は一首目から返歌にそのまま繰り返されています。
これで、2首が一組の問答歌であることが一目でわかります。
一首目の「さし曇り」は情景の描写ですが、返歌は情景の描写が目的ではありませんので、この部分は呼応がありません。
「雨も降らぬか」の変化
「雨も降らぬか」の「降る」が相手をとどまらせる主要な要件であるので、この部分は、「ふらずとも」に受け継がれています。
ただし、「ふるので」ではなくて、「降らなくても」と打ち消しがなされており、作者の意思が感じられます。
「留まる」の繰り返しと強調
最後の「君を留めむ」が大切なところですが、これが返歌だと、「吾は留らむ」が最初で次に「妹し留めば」と「留める」「留む」の形で2回繰り返されて、「留まる」ことが強調されています。
吾と妹の対照的相似
さらにこの部分は
- 私が留まる
- あなたが留める
として、主語に「吾」と「妹」を対称的に配置。
各主語に合うように「留まる」の自動詞と、「留む」が繰り返して使われています。
それで「吾は留らむ」「妹し留めば」として歌を終えています。
「妹し留めば」の「し」は妹を強める助詞です。「他ならないあなたがそう言うのだから」という「し」です。
倒置の修辞法
「妹し留めば」は倒置という和歌の修辞法になります。
もしこの語順が「妹し留めば吾は留らむ」であっても意味は同じですが、「他ならないあなたが留まれといってくださるのなら」と切っているので、「ねえ、そうですよね」という相手への問いかけの余韻を残します。
問答歌というのはこのように、相手の使った言葉をできるだけ使い、それを反復することで成り立ちます。
最初の歌をできるだけ尊重して相手の意向を大切にして、それを補足して強めるのが返歌の役割です。
この歌は男女の相聞でもあります。
また、昔の和歌は声に出して詠まれるのが普通でしたので、男女が同じ言葉を「唱和する」というのは、今以上に2人の心がぴったりと合っているという印象を与えたと思われます。
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新海誠監督の映画「言の葉の庭」は、上の2首の他にも万葉集の引用がふんだんにあるアニメーションの映画で映像がすごくきれいです。
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きょうの日めくり短歌は、新海誠監督の映画「言の葉の庭」に登場する万葉集の雷の短歌をご紹介しました。
それではまた!
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