石川啄木

東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる/石川啄木『一握の砂』短歌代表作品

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「東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる」石川啄木の歌集「一握の砂」より有名な短歌代表作品の現代語訳と句切れ,表現技法などについて解説します。

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東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる

読み:とうかいの こじまのいその しらすなに われなきぬれて かにとたわむる

作者

石川啄木 『一握の砂』

現代語訳と意味:

東海の小島の磯の白い砂浜の上で、涙を流しながら蟹と戯れている

 

語の意味と文法解説:

東海の…漠然とした地を指すと思われる 実際には函館の大森浜とも言われる

小島…北海道そのものを、「東海の小島」と考える人もいるが、これも同じく漠然とした地を指すのだろう

われ…「わたし」を指す代名詞。「わたしは」の「は」に当たる助詞は省略されている

泣きぬれて…泣く+濡れる 涙にぬれたという意味

たわむる…「戯れる」の文語 基本形

表現技法と句切れ:

句切れはありませんので、「句切れなし」

解説と鑑賞

「東海の磯の小島の」の部分は、客観的叙述ではなく、概念的な意味だととらえられている。

啄木の頭にあったのは、かつて赴任していた函館の大森浜であったらしい。

しかし、この歌そのものは海辺を読もうとして詠まれたものではなく、北海道時代の回想であると思われる。

「東海の小島の磯の」亀井勝一郎の解釈

函館生まれの亀井勝一郎は、この歌について

「函館は、元は本当に小島であったが、砂の堆積で現在のごとく陸続きになったという。今では大きな市街になっているので目立たないが、地上から見るとやはり小島の感じが残っている。
啄木が東海の小島と歌ったのもこの感じであろう。そして不思議なことに、20年も離れてこちらから思い出すと、幻のように浮かび上がってくる国境の姿はやはり小島だ」

と述べていることも、興味深い。

山本健吉の考える「小島」とは

山本健吉は、この「小島」について、亀井勝一郎の上記の解釈をあげた後、さらに次のように言う。

これはダブルイメージなのである。彼が読んで感激し、手紙まで出した、ヨネ・ノグチの詩集『東海より』の「東海」、すなわち日本である。大志を抱きながら、日本という小さな島国に縮こまっていなければならないの嘆きが、北海流離の悲愁に重なってくる。「東海の小島」とは最果ての国の流離感が生み出したイメージで、具体的には大森浜だということになる。

『一握の砂」作歌の次第 石川啄木の日記

日記にはこれらの歌の作歌の次第については、次のように記されている。

「昨夜枕についてから歌を作り始めたが、興が刻一刻に盛んになってきて遂々徹夜。夜があけて、本妙寺の墓地を散歩してきた。たとえるものもなく心地がすがすがしい。
興はまだつづいて、午前11時ごろまで作ったもの、作者120首の余。そのうち百ばかり与謝野氏に送った」

というものであり、それぞれの歌が、熟考されて作られたとは考えにくく、いずれも、文字通り「興にのって」作られたものと考えられるべきだろう。

心に浮かぶものの総体とパラレルな相関

私自身は、「東海の」はつまり、実際にそれを詠んでいる時に啄木が居たのは、啄木の部屋であり、「小島」を含めて、啄木の心の世界と説明しておきたい。
山本健吉が「『蟹』には何の寓意もない」という「蟹」は、ないどころか、これがすなわち短歌である。

「蟹」は短歌

啄木にとっては、それは偶然自分の心の表面に湧いて出た「蟹」のようなものだった。その「蟹」を相手に、一晩戯れてみる気になったのである。それが、良くも悪くも、啄木の短歌の始まりであった。

とはいえ、「東海=部屋」「蟹=短歌」という置き換えではなく、その時の啄木の居た場所、それまでの回想、その時書いているのは歌、という状況や心境と、啄木の心に浮かぶものの総体とこの一首とがパラレルな相関を成していると考える。

「われ泣きぬれて」の意味

小説家になろうとして、大作の小説が書けず挫折した啄木にとって、短歌はそれに比べると取るに足りない小さなものであったのだろう。

真面目に取り組もうとはせず、短歌を文学とも認めていなかったようなところがある。そのため、歌を詠むこと自体、啄木にとって喜ばしいことではなかった。「われ泣きぬれて」というのはそういう意味だろう。

しかし、啄木が最後にたどり着いた短歌という詩型は、こうしてまぎれもなく啄木の声を我々に伝えるものとなったのだった。

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-石川啄木

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