15日の朝日新聞のコラム「星の林に」にピーター・マクミランさんが大伴家持の「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事」を英訳したものが掲載されていましたので、こちらにご紹介します。
この歌のポイントである、雪が降って重なるということと、よい事が重なるということの二つの言葉をどのように英語に置き換えられたのかということですが、これがたいへん見事に翻訳されていますので、日本語の原作と合わせてご覧ください。
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新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
読み:あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと
作者は大伴家持
作者は大伴家持で、この歌は、万葉集を編纂したといわれる大伴家持自身が、万葉集の一番最後に置いた自作の作品です。
現代語訳は「新しい年の初めの初春の今日降る雪のように、積もれよ、良いことが」というもので、新年を迎えたお祝いの歌であります。
※大伴家持の和歌一覧
大伴家持『万葉集』の代表作短歌・和歌一覧『万葉秀歌』より
「積もる」「重なる」の英語は?
「しけ」の部分のは「しく」という動詞であって、よい事が 「絶え間なく起こる」「重なる」ということです。
雪が降るの「降って積もる」ということと、良い事が「重なる」というのは、等価に扱われており、良い事が重なるという、未来の抽象的な出来事が、現時点での「雪が積もる」として、視覚的な実像へと置き換えられ、確たるものとして実感ができるようになっているのです。
この「降って積もる」 と 「重なる」 というのが、英訳では、同じものであるということがわかるように fall という英単語の一語で表現されているのです。
それでは、そのピーター・マクミランさんの翻訳を見てみましょう。
大伴家持の「いやしけ吉事」短歌の英訳
新(あらた)しき年の初めの初春の今日降る雪のいや頻(し)け吉事(よごと)
(『万葉集』巻20・4516 大伴家持)
On this New Year’s Day
which falls on the first day of spring,
like the snow that also falls today,
may all good things pile up
and up without pause or end....
「予祝」としての短歌の意味
また、マクミランさんは、この歌の、正月の雪が吉事の前兆であること並べて、この歌の「予祝」としての側面にも触れています。
予祝とは、これから訪れるであろう喜びを前もって言祝(ことほ)ぎ、その実現を祈ることだ。この歌は現に降りしきる雪と今後訪れる吉事とを一体化させ、未来を言祝いでいる。しかもこの年の元日は、「年の初めの初春」とあるように立春日とも重なる格別の吉日だった。それは予祝の実現を保証するものとも捉えられたろう。―ピーター・マクミラン
万葉集の最後に置かれた目的
さらに、この歌が、万葉集の最後にあることについても
『万葉集』の最後にあって未来を予祝するこの歌は、『万葉集』そのものの行く末を祈り、祝うものでもあったのではないか
という風に述べています。
『英語で味わう万葉集』
万葉集の他の代表作の英訳は、万葉集100首を翻訳した本、『英語で味わう万葉集』で詠むことができます。
このブログでの、ピーター・マクミランさんの訳した歌は、元号令和の出典である、梅花の歌序文作者の、大伴旅人の梅花の歌の英訳も読めます。
この歌の詳しい解説は下の記事に