天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
遣唐使として唐に渡った阿倍仲麻呂が、日本を遠く離れたところで月を見て歌った、百人一首の有名な和歌、代表的な短歌作品の現代語訳と句切れと語句を解説し、鑑賞します。
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天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
読み:あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
作者と出典
阿部仲麻呂
百人一首7番 古今和歌集 9-406
現代語訳と意味
大空のはるかに振り仰ぐと月が出ている。
あの月は、昔わがふるさとの春日(かすが)にある奈良の三笠の山に出たのと同じ月なのだろうか
句切れ
句切れなし
語と文法
・天の原・・・ 広々とした大空
・春日・・・奈良の都の地名
・三笠の山・・・奈良にあった三笠山のこと
ふりさけみれば 品詞分解
・ふりさけみれば・・・「ふりさけみる」が基本形の動詞 漢字は「振りさけ見る」とも書く
意味は「ふりあおぐ」「ふり仰いで遠くを望み見る」こと。
・「みれば」の「ば」は、ば(接続助詞)の順接確定条件 「してみると」の意味
春日なる 意味と品詞分解
・春日なる・・・「春日」は地名。奈良の都のこと。
・「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形、
「春日なる」と、「地名+なる」だと、意味は「春日の」「春日にある」
※他の遣唐使の和歌
解説と鑑賞
中国、唐に渡った阿倍仲麻呂が、望郷の念を歌った和歌。
「羇旅歌」すなわち、旅の歌の古今和歌集9巻の冒頭に配置され、以下のような詞書があります。
この歌は、昔、仲麻呂を、唐土に物習はしに遣はしたりけるに、数多の年を経て、え帰りまうで来ざりけるを、この国より又使ひまかり至りけるにたぐひて、まうで来なむと出で立ちけるに、明州と言ふ所の海辺にて、かの国の人、餞別(むまのはなむけ)しけり。夜になりて、月のいとおもしろくさし出でたりけるを見て、よめるとなむ語り伝ふる
遣唐使 阿倍仲麻呂
阿倍仲麻呂は19歳の時に留学生、当時の言葉「留学生=るがくしょう」として唐に渡りました。
阿倍仲麻呂は唐の官吏任用試験である、科挙に合格し、唐の玄宗皇帝に使えます。
19歳で渡った仲麻呂は50歳を超えて、ようやく日本に帰ろうとしますが、当時の手漕ぎの舟は、日本にはたどり着けずにベトナムに遭難してしまいます。
仲麻呂は再び中国で仕事をすることとなり、その後も日本に帰ることはなく、 そのまま中国で一生を終えました。当時の遣唐使というのは命がけの授業であったのです。
そのような遣唐使の悲哀を伝える歌として今まで鑑賞されてきたのがこの作品です。
作者の心情
この歌は歌の巧拙よりも、作者と詠まれた条件にそもそもの感動があります。
今のように簡単には買えることのできない、外国における望郷の念は切実なものがあるでしょう。
日本の月と重ね合わせて、故郷を思う作者の姿には、現代においても心打たれるものがあります。
この歌は阿倍仲麻呂が初めて日本に帰ろうとして旅立つ前に詠んだ歌だとされています。
結局、船は日本にたどり着けなかったわけですが、この歌が日本に伝えられました。
阿倍仲麻呂について
698~770年 吉備真備(きびのまきび)と共に19歳の時に留学生として唐に渡る。王維や李白と交わり、玄宗皇帝から厚く遇された。753年、検討し藤原清河と共に帰国を試みるが、難破してベトナム安南に漂着。ふたたび唐に戻り、帰国を果たせず唐で没した。
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