あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
百人一首と万葉集にある柿本人麻呂の有名な和歌、代表的な短歌作品の現代語訳と句切れと語句を解説し、鑑賞します。
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あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
読み:あしびきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
作者と出典
柿本人麻呂の作
「百人一首」「万葉集」に元歌
この歌の作者について
ただし、柿本人麻呂作とされているが、万葉集にも同じ歌形の歌があり、口伝えにされているうちに、大歌人である人麻呂の歌とされたとみられる。
この歌は「拾遺集」にも収められている。
現代語訳と意味
山鳥の長く垂れた尾のように長い長い夜を、寂しく一人寝をするのであろうか
句切れ
句切れなし
語と文法
語と文法の解説です。
・あしびきの・・・「山」にかかる枕詞 意味はない
※枕詞については
枕詞とは その意味と主要20の和歌の用例
・山鳥・・・おそらく雉のような鳥と思われる。山鳥には”ひとり寝”をする習性があるとの言い伝えがあった。
・しだり尾・・・長い尾
ながながし 品詞分解
形容詞「長々し」に「夜」をつけたもの。
元は「シク活用」なので、活用の通りだと「長々しき夜」となる
ひとりかも寝む 品詞分解
この部分の品詞分解は
ひとり+か(疑問の係助詞)も(詠嘆の係助詞)+ね(「寝(ぬ)」の動詞未然形)む(未来の助動詞)
表現技法
「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」までが「長い」を導き出すまでの序詞(じょことば)
鳥の尾の長いことに、かこつけて、夜が長いということを言いたいがため、実際にもそこまでの字数を”ながく”取っている。
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解説と鑑賞
伴侶がなく、一人だけで夜を寝るわびしく淋しい気持ちをうたい上げた作品です。
山鳥は、雌雄の対や、群れではなく、一匹だけ寝る、つまり「ひとり寝」をするとの言い伝えがあり、自分のことをその一人寝る山鳥と同じようにたとえています。
そして、長いことを伝えるのにも、「あしびきの」の枕詞にはじまって、「しだり尾の」まで、五七五の17音を用いて、文字数とそれを詠みあげる「ながいながい」時間をもって、感覚的にも、結論の「ひとりかも寝む」までが、いかにも長いと思わせるような構成となっています。
わびしく寂しい気持ちを表すものではあっても、どこかユーモラスであり、工夫が凝らされた歌であるので好まれて百人一首に取られたものと思います。
柿本人麻呂の経歴
飛鳥時代の歌人。生没年未詳。7世紀後半、持統天皇・文武天皇の両天皇に仕え、官位は低かったが宮廷詩人として活躍したと考えられる。日並皇子、高市皇子の舎人(とねり)ともいう。
「万葉集」に長歌16,短歌63首のほか「人麻呂歌集に出づ」として約370首の歌があるが、人麻呂作ではないものが含まれているものもある。長歌、短歌いずれにもすぐれた歌人として、紀貫之も古今集の仮名序にも取り上げられている。古来歌聖として仰がれている。