アララギの歌人たち

垂乳根の母がつりたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども/長塚節

投稿日:

垂乳根の母がつりたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども

長塚節の有名な「たらちね」の使われている短歌、歌の中の語や文法、句切れや表現技法と共に、歌の解釈・解説を記しながら鑑賞します。

スポンサーリンク




垂乳根の母がつりたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども

読み:
たらちねの ははがつりたる あおがやを すがしといねつ たるみたれども

作者と出典

長塚節「鍼の如く 其の2」

意味:

母が吊ってくれた青い蚊帳、その中にすがすがしいと寝た。たるんでいたけれども。

句切れと表現技法

4句切れ 倒置

語と文法

語と文法について解説します。

「たらちねの」

「たらちねの」は「母」を導き出すための枕詞 「たらちね」として母の代名詞として用いることもある

「いねつ」

漢字で書くと「い寝つ」

「いねつ」の「い」は接頭語。

寝つ

基本形は「寝ぬ」。それに過去の助動詞「つ」がついて「寝た」の意味

たるみたれども

たるむの連用形+「たり」存続の助動詞

「ども」は逆接の確定条件の接続助詞

 

解説

長塚節の母を詠んだ有名な歌。

結核の入院後病院から退院して帰宅。母の用意してくれた蚊帳に眠る気持ちが詠われています。

「たらちねの」母を表すための枕詞で、万葉集でも使われていますが、近代短歌においては、「たらちね」はややあらたまったシーンで母を詠むときに使われていることが多い気がします。

この歌は、ごく普通の日常の一場面ですが、単に「母」とせずに「たらちねの」とすることで、母との結びつきを強く感じます。

蚊帳とは何か?

蚊帳というのは、下が空いた大きな四角い、網の袋のようなものです。

夏は、就寝中の蚊に悩まされないように、蚊帳をつって寝たのですが、色は青い色の蚊帳が多かったようです。

さらっとした風合いの素材の編みでもあり、いかにも涼しげで、すがすがしい。病院から帰ってきた後では、余計にそう思われたのでしょう。

また、蚊帳の動詞は「吊る」であり、その4隅と要所を部屋の角にひっかけて張り巡らせて、人はその中に入って就寝しました。

人が一人入れるくらい、それなりに大きなものですので、ピンと張るには力が要ります。

老いた、背も小さいお母さんであるので、力を入れて引っ張ることができない。

なので、蚊帳が少したるんでいることを、「たるみたれども」と最後に倒置の語順で付けており、いかにもお母さんが吊ったものだということを表してもいます。

一連の続きの蚊帳の歌

一連の他の蚊帳の歌は下の通り

小さなる蚊帳もこそよきしめやかに雨を聴きつゝやがて眠らむ

(小さな蚊帳もよいものだ。静かに雨を聞きながらやがて眠ろう)

蚊帳の外に蚊の声きかずなりし時けうとく我は眠りたるらむ

(蚊帳の外に蚊の声が聞こえなくなった時、気持ちよく私は眠ってしまったのだろう)

廚なるながしのもとに二つ居て蛙鳴く夜を蚊帳釣りにけり

(台所の流しの下に二匹の蛙が鳴くこの夜は蚊帳を吊ったのであったなあ)

長塚節と母

長塚節は生涯結婚せずに、父が亡くなった後は母と二人暮らしをして家業を守りながら、歌作を続けました。

明治44年(1911)12月に喉頭結核の診断を下され、一時婚約をしていた黒田てる子とやむなく婚約を解消します。

その頃の入院中の歌においては、黒田への思慕と並んで、下に示すように母を詠んだ一連の歌があります。

当時の結核は、重い病であり、かかった人は死を意識せざるを得ませんでした。

病院からの帰宅後、母の吊った蚊帳に、あたかも母に包まれるように病の身を横たえた時、長塚節はどんなにか安心したことでしょう。

長塚節については、藤沢周平による長塚節の伝記小説がおすすめです。







tankakanren

-アララギの歌人たち
-

error: Content is protected !!

Copyright© 短歌のこと , 2020 All Rights Reserved Powered by STINGER.