街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る
木下利玄の冬を詠った短歌、現代語訳と品詞分解、句切れと修辞法を解説します。
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読み:まちをゆき こどものそばを とおるとき みかんのかせり ふゆがまたくる
作者:木下利玄 (きのしたりげん)
現代語訳と意味
街を歩いていて、子どものそばを通り過ぎる時に、蜜柑の香りがする。冬がまたもうじき来るのだなあ
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教科書の短歌解説
句切れ
4句切れ
「香せり」の品詞分解
「香せり」
「香」・・・名詞
「す」・・・本形が「す」のサ変動詞
「せり」・・・ 「す」+ 存続の助動詞「り」
修辞と表現技法
市井を歩いているとき、ふと出会う蜜柑の香りに、冬の到来を感じるという内容の歌です。
「香せり」は文語ですが、「子」ではなく「子供」、「~時」でのつなぎ方、「来る」の止めなど、口語的な、柔らかい感じのするものとなっています。
解説と鑑賞
季節の到来を、外界の自然の事物ではなくて、「子供」という対象を通して感じているというところが独特です。
木下利玄夫妻は、子どもが生まれても、病弱で次々に亡くすという体験をしたため、実は蜜柑の香よりも、子どもの方に注意が向きがちだったのでしょう。
その子供に柑橘の香りを感じるというのは、むしろ、蜜柑の香りとしてではなく、子どもの体臭としてとらえて、懐かしむ思いがあったに違いありません。
木下利玄の他の短歌作品
大き波たふれんとしてかたむける躊躇(ためらひ)の間(ま)もひた寄りによる
遠足の小学生徒有頂天に大手ふりふり往来とほる
亡き吾子の帽子のうらの汚れみてその夭死(はやじに)をいたいけにおぼゆ
木下利玄について
木下利玄(きのしたりげん)本名は利玄(としはる)。
歌人。岡山県生。東大卒。佐佐木信綱の「竹柏会」同人となり歌を学ぶ。同級の武者小路実篤らと『白樺』を創刊、北原白秋・島木赤彦にも影響を受け、歌集『銀』『紅玉』を発表。その後『日光』『不二』同人として作歌を続け、その短歌は彼の歿後高い評価を受けるに至った。大正14年(1925)歿、40才。
木下利玄の短歌の作風と表現技法
口語的発想による清麗な詠風、四四調の破調にも特徴がある。
窪田空穂,島木赤彦らの写実歌風を自らのヒューマニズムにとり入れ、独自の「利玄調」と言われる作風を確立した。