明恵上人の和歌として有名なもの「あかあかや あかあかやかや あかあかや あかあかやかや あかあかや月」は、誰にとっても一度読んだら忘れられない歌です。
きょうの日めくり短歌は、アララギ歌人の間でもよく言及された明恵上人の短歌とエピソードをご紹介します。
明恵上人の忌日 明恵忌
1月19日は、鎌倉時代の僧侶で、和歌を残した明恵上人(みょうえしょうにん)の命日、忌日です。
※「あるべきようは」については下の記事に
明恵上人の生活訓「あるべきようは」解説
明恵上人はどんな人
明恵上人は 承安三年(1173)正月八日生れ、八歳で両親を亡くし 9歳で寺に入山、13歳で出家をします。
24歳の時、本格的な出家を志し、そのために右側の耳を切り落としたというエピソードが伝わっています 。
耳を切ったの翌日には、その痛みの中で、文殊菩薩を幻に見たともいいます。
明恵には、和歌の記録の他に、夢の記録が記されたものがあるのですが、このような体験が後の夢の記述へとつながったと思われます。
ユング心理学者である、故河合隼雄さんが明恵の夢のエピソードを紹介されていた通りです。です。
明恵上人の有名な月の短歌
明恵上人は一方では和歌もよく詠み、歌集「明恵上人歌集」も編まれています。
明恵上人の一番有名な和歌は下のものです
あかあかやあかあかあかやあかあかやあかあかあかやあかあかや月
作者:明恵上人 「明恵上人歌集」
一首の意味
「あかし」には、「赤し」と「明し」、つまり、赤いと明るいの両方の意味があります。
一首の意味は、月の明るさとその尽きることのない光を、ただ無心に歌ったものといえます。
この歌には、明恵の次の言葉があります。
「和歌はよく詠まんなんどするからは、無下にまさなきなり。ただ、何となく読み散らして、心のまことにすきたるは、くるしくもなきなり」
「あかあかや」の歌は、その「短歌はよく詠もうとするのが良くないのは言うまでもない。単に思うように詠んで、胸が空けば歌を詠むに苦しいこともない」との言葉を実践した代表的な歌とも言えます。
明恵上人の他の短歌
あはれ知れと我をすすむる夜はなれや松の嵐も虫の鳴く音ねも
山寺に秋のあかつき寝ざめして虫とともにぞなきあかしつる
雲を出でて我にともなふ冬の月風や身にしむ雪やつめたき
くまもなくすめる心のかかやけば我が光とや月おもふらむ
九めぐり春は昔にかはりきて面影かすむ今日の夕暮
昔みし道はしげりて跡たえぬ月の光をふみてこそ入いれ
書きつくる跡に光のかかやけば冥くらき道にも闇ははるらむ
斎藤茂吉には「あかあかと」を用いた「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」という歌があります。
他にも2首目は、斎藤茂吉の「ともしび」の「山なかのみ寺しづかにゆふぐれて窿応上人(りゆうおうしやうにん)は病(や)みこやりたる」を思わせます。
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 『あらたま』
目をあきてわがかたはらに臥したまふ窿応和尚のにほひかなしも/斎藤茂吉『ともしび』
明恵を詠んだアララギの短歌
アララギ派の歌人は、明恵上人の短歌からも、それぞれに学んだところが多くあるようです。
斎藤茂吉の作品
モリソン文庫明恵上人の歌集をば少しく読みて吾ものおもふ
作者と出典
斎藤茂吉 歌集「つゆじも」
斎藤茂吉名が長崎医専に赴任した時に詠まれた作品です。
この「モリソン文庫」というのは、長崎の図書館に「モリソン文庫寄贈」とあったものを詠み入れたものです。
斎藤茂吉の月を詠んだ短歌 赤光,あらたま,つゆじも,白桃,暁紅より
中村憲吉の作品
特に中村憲吉は、一時明恵に熱心であった様子が、他の歌友によっても語られており、作品もあります。
山河に庵(いほ)りし人の起臥(おきふし)のあるべきやうの幽(かそ)けさを思(おも)ふ
作者と出典:
中村憲吉 歌集「軽雷集」
明恵上人の居房を訪ねて、自らの生を省みる一連の中の歌。
「有るべきやうは」は、明恵上人が生活訓を自らのために箇条書きにした、以下の文章からとられています。
『人は阿留辺畿夜宇和(あるべきようは)の七文字を持(たも)つべきなり。僧は僧のあるべきよう、俗は俗のあるべきようなり。乃至(ないし)帝王は帝王のあるべきよう、臣下は臣下のあるべきようなり。このあるべきようを背くゆえに一切悪しきなり。』
憲吉は、山川のほとりにそれらの自然に同化するような庵に住んだ明恵上人のつつましい暮らしを思い浮かべ、それを「あるべきようのかそけさ」としています。
そして、作者の憲吉自らのこれからの暮らしに下のように重ねていきます。
我れつひに世にわづらいひて静かなる生きのねがひに難かりなむか
中村憲吉には、家を継がなければならなかった苦悩があり、明恵の人生訓を支えとしようとしたものでしょう。
きょうの日めくり短歌は、明恵の短歌代表作である「あかあかや月」の歌、明恵を詠んだアララギ歌人の歌についてご紹介しました。
それではまた!
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