立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む
百人一首の中納言行平、在原行平(ありわらのゆきひら)の和歌、現代語訳、修辞法の解説と鑑賞を記します。
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立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む
現代語での読み:たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん
作者と出典
中納言行平(ちゅうなごんゆきひら) 在原行平(ありわらのゆきひら)
百人一首16 『古今集』離別・三六五
現代語訳:
私が発って別れても、因幡の山の上の峰に生えている松ではないが、人が私を待つと聞いたならすぐにでも帰って来よう
・・
句切れ・修辞法の概要
- 句切れなし
- 序詞
- 掛詞
※注 序詞との指摘がない解説もある
語の解説
・立ち分かれ…「立つ」「わかる(基本形)」の連用形の連続
・し…驚異の助動詞
「いなば」の掛詞解説
・基本形「去(い)ぬ」の未然形「いなば」(意「別れて去ったならば」)と地名の「因幡」の掛詞
・因幡…地名・現在の鳥取県の東半部
「まつ」の掛詞解説
植物の「松」と動詞の「待つ」の掛詞
「聞かば」の品詞分解
「聞く」の未然形+接助「ば」…仮定条件
帰り来む
・「帰る+来る」の複合動詞
・「む」は意志の助動詞
解説
古今集巻8、離別歌の巻頭の歌で、因幡守に任ぜられた際に詠まれた歌と思われる。
作者、在原行平は、在原業平の兄。名前の中納言(ちゅうなごん)は、役職名で太政官に置かれた令外官のひとつ。
複雑な技巧が凝らされた歌であるが、優れた別れのあいさつの歌となっている。
さらに言えば、技巧的ながら「今帰り来む」の「今」を含む句は強い意志を感じさせる結句となっている。
修辞法の解説
この歌には複数の修辞法が用いられている。
掛詞の表現技法
掛詞は下の箇所
「因幡(いなば)」に「去なば」
「松」に「待つ」
序詞の部分
この歌の序詞の部分は、「立ち別れいなばの山の峰に生ふる」まで。
このあとの「まつ」を導くための序詞となる。
在原行平とは
818-893 平安時代前期の公卿(くぎょう),歌人。
在原業平(なりひら)の兄。天長3年弟業平らとともに在原の氏をあたえられる。播磨(はりま)・信濃(しなの)などの国守,参議,蔵人頭(くろうどのとう),大宰権帥(だざいのごんのそち)などをへて,中納言となる。元慶(がんぎょう)5年一族の学問所奨学院を創立。歌は「古今和歌集」「後撰(ごせん)和歌集」などにおさめられている。寛平(かんぴょう)5年7月19日死去。76歳。
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在原行平の他の和歌
恋しきに消えかへりつつ朝露の今朝はおきゐむ心ちこそせね(後撰720)
旅人は袂すずしくなりにけり関吹き越ゆる須磨の浦風(続古今868)
わくらばにとふ人あらば須磨の浦に藻塩たれつつわぶとこたへよ(古今962)
こきちらす滝の白玉ひろひおきて世の憂き時の涙にぞかる(古今922)
我が世をば今日か明日かと待つかひのなみだの滝といづれ高けむ(新古1651)
嵯峨の山みゆきたえにし芹河の千世のふるみち跡はありけり(後撰1075)