橘の匂ふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする
俊成卿女の新古今和歌集に収録されている有名な和歌の現代語訳、品詞分解と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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橘の匂ふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする
読み: たちばなの におうあたりの うたたねは ゆめもむかしの そでのかぞする
作者と出典
俊成(しゆんぜい)卿女・他に藤原俊成女(ふじわらのとしなりのむすめ)とも呼ばれる
新古今和歌集 巻第三 夏歌 245
現代語訳と意味
花橘の香りが匂うところでうたたねをしていると、夢のなかでも昔の恋人の袖の香りを感じるようです
句切と修辞法
- 句切れなし
- 係り結び「ぞ・・・する」
「する」は サ行変格活用の連体形
表現技法としての係り結び
「ぞ」の係助詞を名詞につけて強調、その後に続く動詞を連用形にすることで、その部分、ここでは下句全体を強調する技法
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語句と文法
たちばなの…「橘」は柑橘系の植物で、花に良い香りがする
あたりの…「辺り」。その所・時・ものに近い範囲。付近。
うたたねは…「は」は格助詞。
解説と鑑賞
「通具俊成卿女歌合十八番右持」の歌合の俊成女の歌
本歌は古今和歌集の「さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」の歌。
この歌の解説記事:
さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 古今和歌集
俊成卿女の代表作の一つ
俊成卿女の、代表的な四首のうちの一つに入る歌。
橘の香が愛する人の袖の香りを思い出させるという抒情的な歌で、主語が「うたたたねは」とすることで、夢幻的な性格を一層強めている。
本歌に「うたたね」というう夢うつつの感覚を盛り込むことで、本歌の実際的な意識から幻想性への転換を図ることに成功している。
おぼろな意識の中にも、相手を思い出すということは、その昔過ぎ去った相手こそが、本心からの思い人なのであろうが、寂しさや、悲しさに焦点を当てたのではなく、さわやかな読後感がある。
千五百番歌合とは
千五百番歌合(せんごひゃくばんうたあわせ)は、鎌倉時代に後鳥羽院が主催した歌合。30人の歌人が100首ずつ詠進した(「後鳥羽院第三度百首」)が、この3000首が1500番の歌合に結番されるという壮大な催しの歌会。
藤原俊成女について
藤原俊成女(ふじわらのとしなりのむすめ)・別名俊成卿女は、千五百番歌合以来、女流歌人の中心的存在となった人物です。
鎌倉時代前期の女流歌人。藤原俊成の孫娘で,その養女という意味で俊成女と呼ばれる。歌才を認めた後鳥羽院に女房として出仕し,『千五百番歌合』『仙洞句題五十首』など,多くの歌合,歌会に参加。宮内卿とともに『新古今和歌集』女流歌人の双璧をなした。
歌風は巧緻で物語的傾向が著しく,特に恋の歌にすぐれている。『新古今集』に 29首入集し新古今和歌集の代表的な歌人の一人。