折句というのは、和歌の技法の一つ、折句の用いられた和歌の用例をあげて解説します。在原業平と紀貫之の歌が有名です。
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折句とは
折句とは、和歌の上での技巧の一つ、言葉遊びの一種です。
和歌は、57577の5つの句から構成されますが、その各句の頭の字一文字をつないだ5文字の言葉が見えてくるというものです。
折句を使った代表的な和歌
折句を使った代表的な和歌は、在原業平と紀貫之の下の歌がたいへん有名です
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
-在原業平
小倉山峰立ちならし鳴く鹿の経にけむ秋を知る人ぞなし
-紀貫之
それぞれの折句をわかりやすいように表示すると
在原業平の「かきつばた」の折句
からころも
きつつなれにし
つましあれば
はるばるきぬる
たびをしぞおもふ
※この歌の詳しい解説は
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ 在原業平
※「俊頼髄脳」にある和歌の沓冠の用例は
沓冠の折句の和歌の用例 折句の箇所と現代語訳 「俊頼髄脳」他
紀貫之の「をみなへし」の折句
をぐらやま
みねたちならし
なくしかの
へにけむあきを
しるひとぞなき
二首ともに、「かきつはた」「をみなえし」の植物の名前が詠み込まれているという趣向です。
なお、「ば」の濁音については、「は」の清音を「ば」と解釈することが前提となっています。
この歌の解説記事は
小倉山峰立ちならし鳴く鹿の経にけむ秋を知る人ぞなし 紀貫之の折句解説
難易度の高い折句「沓冠」(くつかんむり)
折句にはさらに難易度の高い「沓冠(くつかんむり)」というものがあります。
これは、各句の頭だけではなくて、そこに続く各句の最後の字をつないだものにも、意味を持たせるというもので、吉田兼好の和歌を含む、問答の歌が有名です。
よも涼し ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ
作者:吉田兼好
出典:『続草庵集巻第四』
わかりやすいように表示すると
↓よもすずし
ねざめのかりほ
たまくらも
まそでもあきに
へだてなきかぜ ↑
どうなっているかというと、黒字が
「よねたまへ」(お米を下さい)
そして、最後の結句の「ぜ」から、今度は上にさかのぼっていくと
ぜにもほし(お金もほしいです)
となります。
この歌は、頓阿(とんあ)という僧侶に贈られたものですが、この僧侶は折句が好きだったらしく、つぎのような歌を送り返しています。
よるも憂し ねたくわが背こ はては来ず なほざりにだに しばし訪ひませ
折句の箇所は
↓よるも憂し
ねたくわが背こ
はてはこず
なほざりにだに
しばし訪ひませ ↑
頓阿の返答はというと、
よねはなし(お米はありません)
銭少し(お金は少し融通できます)
というものです。
吉田兼好の意味は、「(あなたがいないと夜は涼しく、手枕にも袖にも秋の風が吹きます」
頓阿の返答は「夜は心が沈む、愛する夫と寝たいのにあなたはとうとう来なかった。しばらくでいいので訪れてください」
おもしろいことに、どちらも恋愛の歌の体裁をとっており、実はお金の算段とその返事だというところで、直截にお金の無心を述べているのではないところが風流と言えます。
「沓冠(くつかんむり)」の歌をさらに詳しく読むには
現代の折句の用例
現代の折句の用例は下のような短歌があります。
美しき草色萌ゆるライ麦はいつか黄金の波になりゆけ
作者:小山佐和子さん
朝日歌壇の投稿歌より。
読みは 「うつくしき くさいろもゆる らいむぎは いつかこがねの なみになりゆけ」。
この、各句の頭の字を取ると、「う・く・ら・い・な」となります。
かそかなるきのふの憂ひ尽きざるも腹いちめんに漂ふ紫紺
作者:春日井健
春日井健は、現代の歌人。
古典にならって「かきつばた」を詠み込んだ折句の短歌です。
以上、和歌の技法である折句、紀貫之と在原業平の折句の歌、沓冠の問答歌他をご紹介しました。