から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ 在原業平の古今和歌集に収録されている和歌の現代語訳と修辞法の解説、鑑賞を記します。
この和歌は、折句と言われる技法で「かきつばた」を詠み込んだ歌として有名です。
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読み:からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら) 古今和歌集 伊勢物語
在原業平については
在原業平の代表作和歌5首 作風と特徴
現代語訳と意味
唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ
※古今和歌集・新古今和歌集の作品一覧に戻る
古今和歌集と新古今和歌集の代表作品 仮名序・六歌仙・幽玄解説
解説
この歌には、以下のような詞書きがあります。
東の方へ友とする人ひとりふたりいざなひていきけり、みかはの国八橋といふ所にいたりけるに、その川のほとりにかきつばたいとおもしろく咲けりけるを見て、木のかげにおりゐて、かきつばたといふ五文字を句のかしらにすゑて旅の心をよまむとてよめる
意味は、
東国への度の折に、友達と二人、三河の国の八つ橋というところに、杜若の花が咲いていた。
そこで「かきつばた」の文字を、それぞれの句の頭に詠んだものが以下の歌である
というものです。
折句の技法
歌の各句を並べると、
から衣
きつつなれにし
つましあれば
はるばる来ぬる
たびをしぞ思ふ
それぞれの句の頭文字を取ると「かきつばた」になるというものです。
「折句」と言われる短歌の技法になります。
折句については下に詳しく解説しています。
折句とは 和歌の技法「かきつばた」「をみなえし」と沓冠の用例
修辞法の解説
この歌においては、上の折句の他にも、たくさんの修辞法、短歌の表現技法が使われているため、以下に解説します。
枕詞
唐衣 「着」にかかる枕詞
「唐衣」の「唐」は、すぐれたものにつく言葉で、接頭語的に名詞に付き、「外国風」である、または、高級で貴重なものという語感を伴って使われた語
※枕詞については
枕詞とは 主要20の意味と和歌の用例
序詞
「唐衣着つつ」は「なれ」を導く序詞
掛詞
・「なれ」…「萎る」(着物がよれよれになる)と「馴れ親しむ」の「なれる」を掛けている
・「つま」…「妻」と「褄」(着物の裾)
・「はるばる」…「遥々」と「張る」(着物を張る)
・「き」…「来」と「着」
※掛詞の解説
掛詞とは 和歌の表現技法の見つけ方を具体的用例をあげて解説
縁語
「唐衣」の縁語 「なれ」「つま」「はる」「き」
係り結び
「旅をしぞ思ふ」
強調の係助詞「ぞ」+ハ行四段活用「おもふ」の連体形
句切れ
句切れなし
「~あれば」の意味は、確定順接条件 「~ので」の意味
在原業平の歌人解説
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある歌の名手。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われる。
在原業平の他の代表作和歌
ちはやぶる神代もきかず龍田河唐紅に水くくるとは(古今294)
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ(古今410)
白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消(け)なましものを (古今851)
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは元の身にして(古今747)
名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思う人はありやなしやと(古今411)