沓冠の折句の和歌の用例 折句の解説 「俊頼髄脳」  

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沓冠の折句の和歌の用例 折句の解説 「俊頼髄脳」

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沓冠の折句とは折り句の中でも難易度の高いものといわれます。

沓冠折句の和歌の用例を、よく知られた有名な和歌からご紹介します。

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折句とは

折句とは、和歌の上での技巧の一つで、57577の各句の各句の頭の字一文字をつないだ5文字の言葉が見えてくるというものです。

折句の代表的な和歌「かきつはた」

折句の代表的な和歌は、在原業平の「かきつはた」の歌です。

から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ

各句の頭の「折句」をしめすと

※上の歌の詳しい解説は下の記事に

から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ 在原業平

「沓冠」(くつかんむり)の折句とは

「沓冠(くつかんむり)の折句」は、さらに難易度が高く、各句の頭だけではなくて、そこに続く各句の最後の字をつないだものにも、意味を持たせるというものです。

「沓冠」(くつかんむり)の折句の由来

光孝天皇が、(後宮の)人々の、和歌の教養を試そうとして、この技法で和歌を詠んだというのが最初のようです。

中でも、広幡(ひろはた)の女御という人物が、一人だけ折句に気づき、和歌を解読して「合わせ薫き物少し。」という折句に気づき、御息所は天皇に薫き物を差し上げたというエピソードも伝わっています。

 

「沓冠の折句」の用例

「沓冠の折句」の用例をあげます。

逢坂もはては往来の関もゐず尋ねてこば来 こなば帰さじ

上に紹介した光孝天皇の和歌のエピソード、作者は光孝天皇です。

歌の読みは

あふさかも はてはいききの せきもゐず たずねてこばこ きなばかえさじ

現代語訳

逢坂の関も、夜更けになれば監視の関守もいない。訪ねてくるなら来なさいよ。来たならば帰しませんよ

折句の箇所と意味

折句の箇所は上の通り

「あはせたき」が句の頭で、句の最後が「ものすこし」。

濁点を省いて、

「合わせ薫き物少し」

となります。

折句の意味

折句の意味は

合わせ薫物を少しください

というもので、「合わせ薫物」とはお香のことで、それを持ってくるように、というものです。

俊頼髄脳『沓冠折句の歌』解説文

この和歌を含む、沓冠折句については、「俊頼髄脳(としよりずいのう)」に下のような解説があります。

沓冠折句(くつかぶりをりく)の歌といへるものあり。十文字ある事を、句の上下(かみしも)に置きて詠めるなり。 「合はせ(あはせ)薫き(たき)物(もの)すこし。」といへる事を据ゑたる歌、

逢坂(あふさか)も 果ては行き来の 関もゐず 尋ねて来(こ)ば来 来なば帰さじ

これは仁和(にんな)の帝(みかど)の、方々(かたがた)に奉らせ給ひたりけるに、みな心も得ず、返しどもを奉らせ給ひたりけるに、広幡(ひろはた)の御息所(みやすんどころ)と申しける人の、御返しはなくて、薫き物を奉らせたりければ、心あることにぞ思し召したりけると語り伝へたる。- 「俊頼髄脳

俊頼髄脳『沓冠折句の歌』現代語訳

沓冠折句(くつかぶりおりく)の歌という和歌がある。十文字の事物を、それぞれの句の上下に一字ずつ置いて詠んだ歌である。合わせ薫き物を少し欲しいということを据えて読んだ歌

「逢坂の関も夜更けになれば往来を取り締まる関所の番人もいない。そのようにここも夜更けは人がいないが、訪ねてきたいなら来なさい。もし来たならば帰すことなどしないでしょう。」

これは光孝天皇が官官の方々に遣わされたものだが、皆真意がわからず、とりあえず変化を奉ったのだが、広幡の御息所という方は、返歌はしないで、薫物を差し上げたところ、天皇は和歌の知識が深いものだとお思いになったと語り伝えられている。

 

俊頼髄脳」とは、12世紀初頭に成立した歌論書。

源俊頼が関白藤原忠実の娘泰子(高陽院)の作歌参考のために書いた歌論、歌の指南書で、その中に、上の用例と解説が詳しく書かれています。

その中にあるもう一つの歌が下の歌です。

 

小野の萩見し秋に似ず成りぞ増す経しだにあやなしるしけしきは

作者不詳。

歌の読みは「おののはぎ みしあきににず なりぞます へ(え)しだにあやなる しるしけしきは」

現代語訳

小野の萩は、去年に見た秋とは変わって増えている。萩でさえ一年の間にこんなに変わっているのだから、あなたを訪れていればよかった。

折句の箇所と意味

折句に示されているのは、「おみなえし」。

そして、「はるすすき」の植物の名前です。

 

吉田兼好の「よも涼し」の和歌の折句

よも涼し ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ

作者:吉田兼好
出典:『続草庵集巻第四』

この歌の現代語訳

吉田兼好の歌意味は、「あなたがいないと夜は涼しく、手枕にも袖にも秋の風が吹きます」

つまり、相手がいないと寂しいという恋愛の歌の体裁をとっています。

折句の箇所

わかりやすいように表示すると

どうなっているかというと、黒字が

「よねたまへ」(お米を下さい)

そして、最後の結句の「ぜ」から、今度は上にさかのぼっていくと

ぜにもほし(お金もほしいです)

となります。

つまり、歌の上での意味は、

「あなたがいないと夜は涼しく、手枕にも袖にも秋の風が吹きます」

ですが、折句の意味は

「お米とお金をください」

ということになりますね。

 

吉田兼好に応答した問答歌

この歌は、頓阿(とんあ)という僧侶に贈られたものですが、この僧侶は折句が好きだったらしく、次のような歌を送り返しています。

よるも憂し ねたくわが背こ はては来ず なほざりにだに しばし訪ひませ

 

現代語訳

この歌の現代語訳は、

夜はつらいものです、あなたはくやしくもとうとう来ない。なおざりでもいいので、ときどき来てください

というもの。

折句の箇所

この折句を説明すると

るも憂

たくわが背

てはこ

ほざりにだ

ばし訪ひませ ↑

 

頓阿の返答はというと、

よねはなし(お米はありません)

銭少し(お金は少し融通できます)

というものです。

折句の部分の意味

歌の全体の意味は、愛する人に向けて、「時々来てください」というものですが、折句の意味は、「お米はないがお金なら少し渡せますよ」という吉田兼好への返答なのです。

折句の意義と面白み

おもしろいことに、どちらも恋愛の歌の体裁をとっており、実はお金の算段とその返事だというところです。

直截にお金の無心を述べているのではないところが風流と言えます。

以上、作るのに難易度が高いといわれる折句の中の沓冠の折句の代表的なもの4首を解説しました。




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