万葉集

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも 狭野茅上娘子

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

作者狭野茅上娘子の万葉集の代表的な和歌を鑑賞、解説します。

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君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

現代語での読み: きみゆく みちのながてを くりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも

作者

狭野茅上娘子 さののちがみおとめ 万葉集 15-3745

現代語訳

あなたの行く長い道のりを手繰ってたたんで 焼き滅ぼしてしまうような天の火がほしいものです。

原文

君我由久 道乃奈我弖乎 久里多々祢 也伎保呂煩散牟 安米能火毛我母

句切れと修辞

  • 句切れなし

語と文法

・長手… 長い道のり。ながち。

・繰り畳ね…「繰る」は手元に手繰り寄せること。

・「畳ね」は動詞基本形「畳ぬ」の連用形。

「畳んでひとまとめにする」との意味

・焼き滅ぼさむ…「滅ぼす+む(意志の助動詞)」

「滅ぼす」は「すべてを消滅させる」の意味

・もがも…願望の終助詞

「もがも」の用例

我が妻も画にかきとらむ暇もが 旅行く我は見つつ偲はむ 防人歌

 

解説と鑑賞

狭野茅上娘子 さののちがみおとめ が 中臣宅守に贈った贈答歌63首のうちの1首。

詞書

63首の詞書は

「中臣朝臣宅守、蔵部の女嬬狭野の茅上の娘子を娶し時、勅して流罪に断じて、越前の国に配しき。ここに夫婦、別れ易く会ひ難さを相嘆き、各慟びの情を陳べて贈り答へる歌六十三首」

となっており、万葉集の巻15には一連63首が収められている。

歌の背景

中臣宅守は罪を得て越前国に流罪となり、娘子とは遠く隔たることになった。

娘子は万葉集の目録によると、「蔵部の女嬬(下級の女官)」だったとある。

上の詞書には結婚をしたことが記されており、原因ははっきりしないが、宅守は神祇官(しんぎかん)として双方が神に仕える役割でもあり、恋愛がタブーであったためかもしれないとも推測されている。

歌が多く詠まれたのはそのような事情によるが、創作なのか実作なのかをめぐってははっきりしておらず、さまざまな説がある。

歌の内容

63首のうちの別れの時の歌。

「天の火が欲しい」という奇抜な発想で注目されている。

「天の火」の出典

「天の火」については日本書紀など他の書物にも先例がみられるが、悪行に対しての物であるためこの歌との関連は薄いとみられている。

「繰りたたね焼き滅ぼさむ」の独自性

「繰り畳む」「焼き滅ぼす」はいずれも万葉集のこの歌にのみ見られる表現である。

「滅ぼす」においては、「すべてを消滅させる」という意味があるため、二つの言葉を重ねたのはたいへん激しい表現として「情念の強さ」が感じられる。

この前の歌は、別れと山越えを詠んでいる「あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし」。

宅守との別れが迫り、北国の越前への長い道のりを消滅させることで、宅守の苦難と離別の苦しみをなくし、道を消滅させることで離別そのものをも拒絶したい願望が強く表されている。

狭野茅上娘子の他の歌

この歌は、斎藤茂吉『万葉秀歌』では取り上げられてはおらず、一連で一番有名なのは下の歌。

あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし(15-3723)

君が行く道の長手を繰りたたね焼き滅ぼさむ天あめの火もがも(15-3724)

この頃は君を思ふとすべも無き恋のみしつつ音のみしぞ泣く(15-3768)

帰りける人来たれりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて

命あらば逢ふこともあらむ わが故にはだな思ひそ命だに経ば 

 

狭野茅上娘子について

狭野茅上娘子 さののちがみおとめ 生没年未詳
万葉巻十五の目録によれば「蔵部の女嬬」。夫婦となったが夫の宅守は越前への流罪に処せられ、離別の際とその後の配所の宅守と贈答した歌が万葉集巻十五に収められている。茅上娘子の歌は、万葉集にその23首がある。

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