君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた 貴司の万葉集の本歌取りの短歌【NHK朝ドラ】  

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君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた 貴司の万葉集の本歌取りの短歌【NHK朝ドラ】

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NHKの連続テレビ小説、朝のドラマの登場人物である梅津貴司は短歌を詠む青年、ドラマの中で、思う人に恋の歌を送る場面があります。

その歌が万葉集の和歌の本歌取りだということが話題になっています。

本歌取りとはなにか、貴司くんの行った本歌取りがどのようなものかを解説します。

NHKの朝ドラに短歌

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NHKの連続テレビ小説、朝のドラマの中に赤楚衛二さんが演じる短歌を詠む青年が登場。

朝ドラで毎朝のように披露される歌の数々が楽しみですね。

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今回の「舞い上がれ」で最も多く話題となったのが、梅津貴司くんの詠む次の歌です。

 

君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた 解説

読み:きみがゆく あらたなみちを てらすよう せんおくのほしに たのんでおいた

作者:

梅津貴司

短歌の意味

君がこれから歩むのだろう新しい道を照らしてくれるように、千億の星に頼んでおいたのだよ

この歌の本歌取りは、万葉集の和歌「君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも」だということが指摘されました。

 

本歌どりとは

本歌取りは短歌や和歌の技法のひとつで、本歌取りというのは元の歌をそっくりまねて、新しい歌を作る方法をいいます。

ただ単に真似をすることが目的ではなくて、

ある特定の古歌の表現をふまえたことを読者に明示し、なおかつ新しさが感じ取られるように歌を詠むこと―出典:「和歌とは何か」渡部泰明

というものです。

本歌取りの歴史

本歌取りの歴史は長く、古くは万葉集に始まって、その後の新古今の時代には推奨され、多くの本歌取りの歌が生まれました。

 

君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた の本歌取りの歌

この歌の本歌取りの歌は、狭野茅上娘子 さののちがみおとめの詠んだ「万葉集」の下の和歌です。

貴司くんの短歌に比べて、狭野茅上娘子の本歌の方は、実はもっと激しい歌であるのです。

 

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも が本歌

現代語での読み: きみゆく みちのながてを くりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも

作者

狭野茅上娘子 さののちがみおとめ 万葉集 15-3745

現代語訳

あなたの行く長い道のりを手繰ってたたんで 焼き滅ぼしてしまうような天の火がほしいものです

和歌の背景

「もがも」というのは、聞きなれない古い言葉ですが、「それがほしい」意味で、ここでは「天の火があったらいいのに」という強い思いを表しています。

というのも作者狭野茅上娘子(さののちがみおとめ)がこの歌に詠んだ、中臣宅守という男性は、娘子の思い人です。

両方ともが宮中に勤めており、恋愛が知られるところとなり、相手が越前、今の新潟に送られることとなった。

その別れを娘子は到底受け入れられない。

それで、「道の行く手を滅ぼしてしまいたい。道を亡くしてしまう天の火があったらいいのに。そうしたらあなたと別れないで済むのに」というのが歌の意味です。

この場合は、道に対してどうというよりも、やはりそのような別れを強いた相手への強い反発もあったのでしょう。

そしてこのような、万葉集でもまれな烈しい激情的な恋愛の歌、というより、女性ながら攻撃性の極めて強い特異な和歌ができ上ったと思われます。

※この歌の解説
君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも 狭野茅上娘子

 

本歌取りの部分解説

それでは貴司くんの本歌取りはどのように行われたのが詳しく見ていきましょう。

本歌に共通する言葉

2首を並べてみると、共通する言葉がよくわかります。

まったく同じ言葉は以下のように見つけられます。

君が行く新たなを照らすよう千億の星に頼んでおいた

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

重なっている言葉は「君が行く」と「道」の部分です。

 

本歌に共通する事物

同じ言葉としてはそれだけなのですが、その後の「千億の星」と「天の火」は、同じ空の上にあるもののカテゴリーです。

君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

「天の火」の「天」は空のこと。

「天の火」は、たとえば雷のような気象現象が思い浮かべられるかもしれませんが、これには宗教的な意味合いも込められているように思います。

貴司くんの方の「頼んでいおいた」というのも一種の願掛けであり、祈りなのでしょう。

作者の願い

君が行く新たなを照らすよう千億の星頼んでおいた

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

 

娘子の方は、天にそのような火を与えてくれるようにと願っているので、この部分も「祈りの場」である「空」とその方向性は一致しています。

「もがも」は「それがほしい」の意味の終助詞でが、その前にに「天が」があるため、「それをくださるように」という天の神への訴えも含まれているのでしょう。

その「天の火もがも」のニュアンスの部分を現代語に置き換えると「星に頼んでおいた」。

詳細に見ればこちらの部分も言葉は違うのですが、十分に本歌取りといえそうです。

「頼んでおいた」の意味

この「頼んでおいた」はなぜ完了形なのでしょうか。

「頼んでおく」とか「これから頼む」のではなくて、「頼んでおいた」なのは、あらかじめそうしてあるということですね。

なので、ヒロインに向かって「頼んでおいた」のあとに言葉を続けるとしたら、「頼んでおいた」から「安心していいよ」というのが、歌の意図であるようです。

そして、頼んだ相手は「千億の星」。

これだけの数があれば、テラス灯りはもちろん、必ず作者の頼みを聞いてくれるに決まっている、そう思わせるに十分な数なのです。

本歌取りの目的の部分

君が行く新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

 

本歌の娘子の歌で目を引く部分は「繰り畳ね焼き滅ぼさむ」の部分です。

意味は「畳んで焼いてなくしてしまう」ということですが、そもそも道というのものは、布地のように畳むことはできません。

娘子は「道」をたとえば、帯のようなイメージでとらえているものと思われます。

なので、ここもとても独創的な部分です。

そして「畳んで焼いて滅ぼす」と3つの動詞を重ねており、とても具体的で、さらに時間経過を含む部分となっています。

短歌の字数の意味

つまり想像でありながら「ああやってこうやって最後には・・・」として、それを3句5文字、4句7文字の合わせて12文字を使っています。

31文字しかない中での12文字ですので、半分くらいを空想の想像の描写に使っているわけですので、割合としてはとても大きいのです。

なので、この部分は娘子の相手への恋心の情念というより、執念のようなものを感じとることができるでしょう。

それが「天の火」にお願いする内容であり、それが火が欲しいという目的です。

対して、貴司くんの歌の方はというと、星にお願いする目的は「照らすよう」と簡潔です。

あくまでお願いが目的ではなくて、相手の無事を祈る気持ちは自分にあるわけですので、相手を大切に思う気持ちが伝わればいい。

それでさらっとさわやかに表現をしています。

本歌取りと意図

このように比べると、逆に本歌の娘子の歌の特異性がより際立ってわかると思います。

本歌取りというのは、単に真似というだけではなくて、ベースに同じものを使って、同じように表現しても、このように作者の意図するところが違うと同じようにはならない、そこもたいへん興味深いところといえます。

共通部分のまとめ

最後に本歌との対照した部分をまとめると、下のようになります。

君が行く新たな照らすよう千億の星頼んでおいた

君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも

 

本歌取りの和歌の例

昔の和歌の本歌取りというのはもう少しわかりやすいものです。

下に式子内親王(しょくしないしんのう)の「玉の緒よ」の本歌取りの解説をあげておきます。

式子内親王は新古今の時代のもっともすぐれた歌人の一人です。

「玉の緒よ」の本歌取り例

この歌は和泉式部の「たえはてばたえはてぬらしたまのをにきみならんとは思ひかけきや」の本歌取りです。

それぞれの語句は以下のように対照できます。

玉の緒よ,和歌

内容を考えるまでもなく、同じ言葉が一目で見て取れます。

また、内容も同じ恋愛の歌であり、類似の内容です。

※この歌の詳しい解説は
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする 式子内親王

本歌取りの歌まとめ

今回の本歌取りは、現代の和歌と古代の万葉集の和歌の上、本歌の方も恋愛の歌とはいえ別離にあたって詠まれた歌という違いがあります。

それでも万葉集の和歌と現代の和歌が時空を超えて一直線につながるという、短歌と本歌取りのおもしろみを十分に伝えてくれるものとなっています。

言葉も内容もそのまま同じように取り入れていいのが本歌取りの技法です。

皆さまも気に入った歌があったら、ぜひ本歌取りを試してみてくださいね。




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