見立てとは、ある対象を別のものに言い換えて表現する和歌の修辞の一つで、古今集の時代に多く用いられました。
実際に見立てが用いられた和歌の例をあげて解説します。
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和歌の見立てとは
見立てというのは、文字通りあるものを他のものに見立てること。
「見立て」の部分を入れて構成したのが「見立ての歌」です。
古今集の時代に多く用いられた技法で、単に目で見ているものとは違った対象物を並記して歌に取り入れることで、歌に大きな幅をもたらすことができます。
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見立てと比喩との違い
見立てと比喩とよく似ていますが、比喩との違いは下のように言えます。
見立て
・AがBである
・AがBであると意図的に見る
・AがBであると間違って見る
比喩
・AのようなBである
「見える」見立て
見立てと比喩の違いを分かりやすくいうと、たとえば、比喩の直喩で「リンゴのように赤い頬」、「リンゴの頬」と言った場合は、リンゴが頬に見えたり、人の顔がリンゴに見えたりするわけではありません。
それが、見立ての場合は「リンゴが頬に見える」という形の記載になります。
つまり、「A=Bに見える」「AのようなB」がその違いです。
比喩の特徴
比喩においては、作者の表現であることが意識されています。
リンゴが偶然頬に見えたというのではありませんで、あえて、「赤い」ということを表現するためにリンゴを持ち出しているわけです。
見立ての特徴
一方、見立ての方は「偶然そのように見えた」、あるいは「間違って見えた」、とされるように、作者の意図ではなく、目で見ているものとは違った第2の物が突然登場するのが特徴です。
見立てに用いられる物一覧
見立てに用いられる物はほぼ決まっています。
以下が、よく使われている見立ての事物です
- 雪・・・花
- 浪・・・花
- 雨・・・涙
- 露・・・玉
- 女郎花・・・女
- 紅葉・・・錦
見立ての和歌の例
実際の和歌を例にしてみてみましょう。
み吉野の山べにさけるさくら花 雪かとのみぞあやまたれける
作者:紀友則 60
歌の意味:「吉野山のほとりに咲いている桜の花は、雪ではないかと見違えてしまったものよ」
見立てたもの
見立てたもの:花→雪
「あやまたれける=みまちがえてしまった」として、桜の花を雪に見立てています。
「あやまたれける」の他の歌も同じです。
例:久方の雲のうへにて見る菊は天つ星とぞあやまたれける
春来れば宿にまづ咲く梅の花 君が千歳のかざしとぞ見る
作者:紀貫之 古今集352
歌の意味:「春になると家に咲く梅の花を君の頭を飾るかんざしと思って見ては愛でている」
見立てたもの
見立てたもの:花→かざし
「とぞ見る=そのように思って(意図して)見る」
梅の花を思う人の髪飾りに見立てています。
霞たちこの芽も春の雪降れば花なき里も花ぞ散りける
作者:紀貫之 古今集・春上9
歌の意味:「木々の芽もふくらむ春になって雪が降るのでまだ花の咲かないこの里にも雪が花が散るように降ることよ」
見立てたもの
見立てたもの:雪→花
この歌には「見る」の動詞はありませんが、「花なき里も」として「花ぞ散りける」となっているので、花ではない雪を意図的に花に見ていることがわかります。
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける
作者:紀貫之 古今集・春上9
歌の意味:「風で桜の花が散ってしまった名残には水のない空に波が立っているようだ」
見立てたもの
見立てたもの:花→浪 空→海
桜の花びらを浪になぞらえ水のない空を海に見立てています。
野山の空に花が散る光景に壮大な海と波を二重写しにしているのです。
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける 紀貫之
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
読み:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
作者:在原業平 百人一首 17 「古今集」294
歌の意味:不思議なことが多かった神代にも聞いたことがない。龍田川が水を美しい紅色にくくり染めにするなんて
見立てたもの
見立てたもの:紅葉→錦
川に浮かぶ紅葉を一枚の錦に見立てています。
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは 在原業平
秋風に声をほにあげてくる舟は天の門わたるかりにぞありける
作者:藤原菅根 ふじわらのすがね 古今集 秋上212
歌の意味:秋風を受け帆を高くあげる舟は、声を高くあげて来るものは天の門を渡る雁であることよ
見立てたもの
見立てたもの:雁→舟
雁が舟に見立てられているわけですが、「雁かり」は下句に種明かしのように登場します。
作者が実景で見ているものの方が雁でそれを船に見立てたのです。
以上、和歌の見立ての用例を実作を上げながらご紹介しました。