君や来し我や行きけむおもほえず夢か現かねてかさめてか 古今和歌集の詠み人知らずの和歌、他に在原業平が主人公とされる「伊勢物語」にも収録されている和歌の現代語訳と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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在原業平の和歌
この歌の作者在原業平の和歌については 主な代表作は下の記事で読めます
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君や来し我や行きけむおもほえず夢か現かねてかさめてか
現代語での読み:きみやこし われやいきけむ おもおえず ゆめかうつつか ねてかさめてか
作者と出典
詠み人しらず または 在原業平(ありわらのなりひら)
・『古今和歌集』 恋3 645
・「伊勢物語」69段 狩の使ひ
※在原業平については
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現代語訳と意味
昨夜はあなたがいらしたのか、私が出向いたのかわかりません。夢だったのか現実だったのか、寝ていたのか それとも覚めていたのか。
句切れ
初句切れ 2句切れ 3句切れ 4句切れ
修辞
- 倒置
- 係り結び
- 対句
品詞分解
君や・・・「や」は疑問の終助詞
来し・・・「し」は過去の助動詞「き」の連用形
我や・・・「や」は疑問の終助詞
行きけむ・・・「けむ」は過去の推量の助動詞
おもほえず・・・動詞「おもほゆ」の未然形+打消しの助動詞「ず」
意味は「思いがけず」「不意に」
夢か現かねてかさめてか・・・「か」は係助詞で 疑問を表し並列する用法
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解説
「伊勢物語」の中の歌。作者は古今集では「詠み人しらず」となっている。
和歌の背景
伊勢物語において、この歌の前にその部分が上のように記される。
業平朝臣の伊勢国にまかりたりける時、斎宮なりける人にいとみそかに逢ひて、またの朝(あした)に人やるすべなくて思ひをりけるあひだに、女のもとよりおこせたりける
伊勢物語の現代語訳
作者業平と思われる人物が、伊勢に下ったときに斎宮と密通してしまった。
斎宮というのは、一生独身を通すべき神に仕える役職の人で、そのような人と恋人同士になるというのはたいへんなスキャンダルです。
業平は翌朝連絡方法がないことを思い悩んでいると、女性の方から歌を送ってきた。
それが上の歌となる、
歌の内容
神に仕える皇子でありながら重大な禁忌(タブー)を犯してしまった、そのため女性はそれを現実のこととして受け入れられない。
歌の内容、最初の部分は「君や来し」「我や行きけむ」とどちらから相手に寄って行ったのかがわからないとしている。
「夢か現か」は夢なのか現実なのか、それもわからないという。
さらに「寝てか覚めてか」は寝ている間の夢のことだったのか、それとも起きている間のことだったのか、和歌はその両極を対句として提示しているだけの内容となっている。
- 「君や来し」「我や行きけむ」
- 「夢か」「うつつか」
- 「寝てか」「覚めてか」
これらのことが相手である男性の業平への返答であって、決して恋歌とは言えないが、自分の身に起こった出来事を肯定しているのは間違いがない。
歌を送るという行為がそれを裏付けているだろう。
この歌の作者
この歌は、『伊勢物語』の中ではあくまで斎宮が詠んで主人公の男性に贈った歌ということになっています。
しかし、業平の歌の特徴を備えているため、斎宮の歌は在原業平が作者であるといわれています。
さらに、その歌が含まれる『伊勢物語』こちらも作者は不明なのですが、業平自身の創作であるという説もあります。
はっきりはしていませんが、『伊勢物語』が業平に大きなかかわりがあり、主人公が業平であると目されているところは共通する見解となっています。
在原業平の歌人解説
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われ、容姿端麗、情熱的な和歌の名手、色好みの典型的美男とされて伝説化された人物。
在原業平の他の代表作和歌
ちはやぶる神代もきかず龍田河唐紅に水くくるとは(古今294)
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ(古今410)
白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消(け)なましものを (古今851)
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは元の身にして(古今747)
名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思う人はありやなしやと(古今411)