在原業平の忌日は、旧暦の5月28日、今日7月9日がそれに当たります。
在原業平の代表作の和歌をご紹介します。
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在原業平はどんな歌人か
在原 業平(ありわら の なりひら)は、平安時代に活躍した歌人で、六歌仙、三十六歌仙にそれぞれ選ばれています。
歌人としては『古今和歌集』の30首を始め、勅撰和歌集に87首が入集している歌の名手です。
天皇家の血を引く高貴な身分もあたりますが、政変により皇族の身分を離れ臣下に下ることになり、政治的には不遇であったと言われます。
美男で恋多き男性としてもよく知られており、後述する『伊勢物語』の主人公とされています。
在原業平の短歌の特徴
短歌の点では、その時代に新しい和歌を生み出した歌人の一人とされています。
業平の和歌は、まず発想がとても大胆で独創的でやや大げさな詠嘆が見られるのが特徴です。
漢詩の表現に題材をとったものも多く、優れた歌人として後代にも高く評価されています。
在原業平の紀貫之の評
紀貫之は、在原業平の短歌について
在原業平は、その心余りて、言葉足らず。萎める花の、色無くて、匂ひのこれるがごとし。
現代語訳での意味は、
心と情感ははあふれるほどであるが、言葉が未熟で足らない。しぼんだ花のようで、色がなく、匂いが残る花のようなものだ。
と表しています。
一見、欠点を述べているようですが、紀貫之の『土佐日記』は、在原業平が主人公である『伊勢物語』を意識して書かれたものと言われており、在原業平の影響を強く受けていることがうかがわれます。
『伊勢物語』とは
『伊勢物語』というのは、平安時代中期の歌物語で、物語に散りばめられた短歌は在原業平の作品です。
この主人公として登場する『男」というのが、在原業平といわれています。
書かれたのは平安時代中期ですが、作者や成立した年ははっきりわかっていません。
在原業平の代表作の和歌
在原業平の代表作短歌としては下のような作品が挙げられます。
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
読み:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
出典
百人一首 17 「古今集」294
現代語訳と意味
不思議なことが多かった神代にも聞いたことがない。龍田川が、水を美しい紅色にくくり初めにするなんて
解説
百人一首にも選ばれている在原業平の代表作です。
上句に、長い時の流れを置いて、その希少性を強調した色鮮やかな紅葉のある川の風景を見事に描き出す秀作です。
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
読み:よのなかに たえてさくらの なかりせば はるのこころは のどけからまし
作者と出典
古今和歌集 伊勢物語
現代語訳と意味
もしこの世の中に全く桜というものがなかったなら、春における人の心はのどかであるだろうに
解説
心を惹かれる桜の花への憧憬を逆説的に表した短歌は、独創的であり、一度読んだら忘れられないものです。
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
読み:からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう
作者と出典
古今和歌集 『伊勢物語』
現代語訳と意味
唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ
解説
歌の57577の各句の頭に「かきつばた」を詠み込んだ技巧的な歌です。
業平の作歌技術の高さをうかがわせます。
白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消(け)なましものを
読み:しらたまか なにぞとひとの といしとき つゆとこたえて けなましものを
出典
新古今851 「伊勢物語」6段
現代語訳と意味
いとしいひとが「あれは白玉か何か別のものか」と尋ねた時に「はかない露だよ」と答えて、露のようにいっそ私も消えてしまえばよかったのに
解説
恋しい人と引き離された悲嘆を詠う繊細な恋愛の和歌です。
この「ひと」とは、後に清和天皇の后となった二条の后(きさき)という人物とされています。、
詳しい解説記事
伊勢物語の訳文と共に読むには
名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
読み:なにしおはば いざこととはむ みやこどり わがおもふひとは ありやなしやと
出典
古今集 411 伊勢物語の9段『東下り』
現代語訳と意味
その名にふさわしいとすれば、さあきいてみよう。都鳥よ、私の思うあの方は無事でいるのかどうか
解説
都鳥という鳥の名前を用いて、わかれてしまった都に住まう恋人を思う心を表します。
詳しい解説記事
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして
現代語での読み:つきやあらぬ はるやむかしのはるならぬ わがみひとつは もとのみにして
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
古今集15 747・「伊勢物語」の第4段『月やあらぬ』
現代語訳と意味
月は昔のままの月ではないのか。春は昔の春ではないのか。月も春も昔のままなのに、私のこの身だけが変わらない
詳しい解説記事
かきくらす心の闇にまどひにき夢うつつとは世人さだめよ
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
古今集646
現代語訳と意味
真っ暗な心の闇に迷ってしまったのです。夢か現実かは、世間の人が定めればよい。
解説
下句には作者のニヒリズムが感じられます。
思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも
読み:おもいあらば むぐらのやどに ねもしなむ ひじきものには そでをしつつも
作者と出典
在原業平 「伊勢物語」第3段 ひじき藻
現代語訳と意味
あなたが私を思ってくださるのなら、荒れた宿でも一緒に寝ましょう。ひじき藻ではないが、敷くならお互いの袖を敷いてでも
解説
「伊勢物語」の「ひじき藻」より。
なんとひじきを詠み込んだ和歌なのですが、「敷物」と「ひじきも」をかけているのです。
めずらしくも面白い歌です。
つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
現代語での読み:ついにゆく みちとはかねて ききしかど きのうきょうとは おもわざりしを
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
・『古今和歌集』巻16哀傷歌861
・「伊勢物語」の125段『つひにゆく道』
現代語訳と意味
いつか最後に歩む道だとは前から聞いていたが、まさかそれが昨日や今日だとは思いもしなかった
解説
伊勢物語の最後の歌で、病を得て死に瀕した際の心境を詠んだものです。
在原業平について
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある歌の名手。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われる。
※「伊勢物語」の和歌の解説は