恋愛の和歌で有名な作品を時代別、歌集別にまとめます。
三大歌集である『万葉集』『古今集』『新古今和歌集』と百人一首と同時代の歌集と有名な歌人の恋愛の歌です。
恋愛の和歌
恋愛の和歌は、恋愛を主題とした和歌は和歌の全体の中でもほとんどを占めているといえるでしょう。
たとえば、万葉集は「一大恋愛歌集」とも呼ばれており、収録された和歌のうち4割は恋愛を詠んだ歌です。
万葉集の恋の歌は特に「相聞」と呼ばれており、他に挽歌・雑歌と並び3つのジャンルのうちの一つとされています。
他に、古今集と新古今集は、「恋歌」という分類で恋の歌が2割を占めるといわれていおり、いつの時代も恋愛を主題にしてに多くの歌が生まれていたことがわかります。
万葉集と古今集、古今和歌集他の恋愛の歌の代表的なものを集めてみました。
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万葉集の恋の和歌30首(1)額田王,柿本人麻呂,大津皇子,石川郎女
万葉集の恋愛の歌一覧
まずは万葉集の恋愛の歌からです。
一覧は目次から選んでください
あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖ふる
読み:あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる
作者
0020 額田王(ぬかたのおおきみ)
現代語訳
紫草の生えているこの野原をあちらに行ってこちらに行って、御料地の番人が見るではありませんか。私に袖を振るなんて
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る 額田王の問答歌
君待つと吾が恋ひ居れば我が屋戸の簾動かし秋の風吹く
読み:きみまつと あがこいおれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく
作者
額田王(ぬかたのおほきみ) 488
現代語訳
あの方をお待ちして、私が恋焦がれている時に、庭前のすだれを動かして秋風が入ってきた
解説
同じく額田王の歌。
動いているのは待っている相手の人ではなく風なのですが、恋する時の心はそのわずかな隙間風にすら動かされてしまうのです。
我が命の全けむかぎり忘れめやいや日に異には念ひ益すとも
読み:わがいのちの またけむかぎり わすれめや いやひにけには おもいますとも
作者
笠郎女
現代語訳
私の命のあるかぎり忘れることなどあるでしょうか。日に日に思いが増すことはあっても。
解説
笠郎女が大伴家持に贈った二十四首の相聞歌の中の一つです。
君に恋ひ甚(いた)もすべ無み奈良山の小松がもとに立ち嘆くかも
読み:きみにこい いたもすべなみ ならやまの こまつがもとに たちなげくかも0593
作者
笠郎女 (かさのいらつめ)
現代語訳
あなたに恋い焦がれて、どうしようもなく、いたずらに奈良山の小松の元で、ため息をつきながら立ち続けていることです
解説
こちらも同じ一連の一首です。
人皆を寝よとの鐘は打つなれど君をし思(も)へば眠(い)ねがてぬかも
読み:ひとをみな ねよとのかねは うつなれど きみをしもえば いねがてぬかも 0607
作者
笠郎女 (かさのいらつめ)
現代語訳
すべての人を、寝よといって打つ鐘の音は聞こえるけれども、あなたを思っているとねつかれないことです。
解説
同じく大伴家持に贈った歌。
鐘の音を聞きながらも、相手が隣に居ない夜なので、思いが切れ切れに沸き起こって眠れないと訴えているのです。
たらちねの母が手離れかくばかりすべなきことはいまだせなくに
読み:たらちねの ははがてはなれ かくばかり すべなきことは いまだせなくに
作者
作者不詳 2368 柿本人麻呂歌集
現代語訳
母の手を離れてこんなに切ないことをしたことはないのに。恋というのはこんなにつらいものだったのか
解説
万葉集でもよく引用される有名な歌。大人になって、初めて恋をした女性の述懐が、素直に切々と表されています。
この歌の解説記事は
たらちねの母が手放れかくばかりすべなき事はいまだ為なくに 柿本人麻呂歌集
ありつつも君をば待たむうち靡くわが黒髪に霜の置くまでに
作者
磐之媛命 万葉集87
現代語訳
このままここにいてあなたを待ちましょう。うちなびくわが黒髪に霜が置くまで
解説
長い年月を相手を思い続け、添い遂げるという決意を表します。
女性の一途な心が込められた歌です。
恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
読み:こいこいて あえるときだに うつくしき ことつくしてよ ながとくもわば
作者
大伴坂上郎女 おおとものさかのうえのいらつめ
現代語訳
恋い焦がれてようやくお会いしたときだけでも、せめて愛しい言葉のありったけを言い尽くして聞かせてください。
二人の間が長く続くようにとお思いになるのなら
恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば/大伴坂上郎女「万葉集」
吾を待つと君が濡れけむ足引の山のしづくにならましものを
読み:あをまつと きみがぬれけん あしひきの やまのしずくに ならましものを
作者
石川郎女 0108
現代語訳
私を待つとて、あなたがお濡れになったという、山のしずくに私がなりたいものです
解説
これも、石川郎女の機知に富んだ返答の歌なのですが、女性らしい比喩です。
吾を待つと君が濡れけむ足引の山のしづくにならましものを 石川郎女
わが背子と二人見ませばいくばくかこの降る雪の嬉しからまし
読み:わがせこと ふたりみませば いくばくか このふるゆきの うれしからまし
作者と出典
光明皇后 万葉集 巻8‐1658
現代語訳
わが夫の君ともし二人で見るのでしたら、どんなにかいま降っているこの雪が喜ばしく思われることでしょうに
解説
皇后が不在の夫に向けて歌った歌です。
わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし『万葉集』光明皇后
うち日さす宮道を人は満ち行けど吾(あ)が思(も)ふ君はただ一人のみ
読み:うちひさす みやじをひとは みちゆけど あがもうひとは ただひとりのみ
作者
2382 柿本人麻呂歌集
現代語訳
陽が射す宮殿への道を人が満ちあふれて通るけれど、私がお慕いするお方はただ一人だけだ
解説
人のたくさんいるところで他の人はどうでもよいが、ただ一人だけに会いたい思いが募るという意味の歌です。
恋ふること心遣りかね出で行けば山も川をも知らず来にけり
読み:こうること こころやりかね いでゆけば やまもかわをも しらずきにけり
作者不詳 2414 柿本人麻呂
現代語訳
恋しい心をどうしようもなくて外に出てきたが、山も川も何も目に入らずに来てしまった
解説
恋は盲目という文字通りの心境を表しています。景色も何も目に入らないのですね。
今は吾は死なむよ我が背生けりとも我に依るべしと言ふと言はなくに
読み:いまはあは しなんよわがせ いけりとも あによるべしと いうといわなくに 0684
作者
大伴坂上郎女 (おおとものかさかのうえのいらつめ)
現代語訳
もう私は死んでしまいます。生きていても、あなたがあたしの方へ心を向けてくださるというわけではないのですもの
解説
大伴郎女が交際相手の一人へ宛てたとされています。本当に死にたいというよりも、男性の心をたしなめた歌なのでしょう。
天地の極(そこひ)の裡(うら)に吾(あ)がごとく君に恋ふらむ人はさねあらじ
読み:あめつちの そこいのうらに あがごとく きみにこうらん ひとはさねあらじ
作者
狭野茅上娘子 さののちがみのおとめ 3750
現代語訳
天地の果てのそのまた末においても、私のように君に恋をしている人は他にはありますまい
解説
この世の中に、あなたを愛する人は私だけであり強く人を思う人も他にはいない、私が唯一の人であるという強い決意の表現です。