『伊勢物語』に出てくる和歌は全部で209首余りありますが、有名な歌の現代語訳、修辞法を一覧にしてまとめます。
『伊勢物語』の和歌
伊勢物語平安時代に成立した日本の歌物語(うたものがたり)で、現存する日本の歌物語の中でも最も古いの作品です。
伊勢物語の主人公「昔男ありけり」の男は、平安時代初期に実在した人物、在原業平とされています。
物語の中には、和歌がいくつも散りばめられて構成されていますが、和歌の数はバージョンによる違いがありますが、全部で209首あるとされています。
『伊勢物語』の和歌の作者
物語の中の和歌の作者はというと、在原業平作とされているものが35首あり、その多くは古今集など他の歌集にあるものです。
ただし、作者がはっきりしていないものも交じっているとされています。
『伊勢物語』の和歌の出典
他の和歌については、『万葉集』『古今集』『後撰(ごせん)集』『拾遺(しゅうい)集』『古今六帖(ろくじょう)』など他の歌も散りばめられて、物語を構成しています。
ここからは有名な和歌とその現代語訳、修辞とポイントをお知らせします。
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを
読み:しらたまかなんぞとひとのといしときつゆとこたえてきえなましものを
出典:
・『伊勢物語』6段芥川
・新古今851
作者:
在原業平
現代語訳
いとしいひとが「あれは白玉か何か別のものでしょうか」と尋ねた時に「はかない露だよ」と答えて、露のようにいっそ私も消えてしまえばよかったのに
修辞のポイント
縁語・・・「消え」が「露」の縁語
※和歌の詳しい解説は
※ 伊勢物語の芥川全文
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
読み:からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう
出典:
・古今和歌集 410
・伊勢物語 9段 東下り
作者:
在原業平
現代語訳
唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ
修辞のポイント
- 折句の技法
- 枕詞
- 序詞
- 掛詞
- 縁語
- 係り結び
詳しい解説は
【解説】から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
読み:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
出典:
・百人一首 17
・「古今集」294
・伊勢物語106段
作者:
在原業平
現代語訳
不思議なことが多かった神代にも聞いたことがない。龍田川が水を美しい紅色にくくり染めにするなんて
修辞のポイント
- 2句切れ
- 枕詞
- 擬人法
- 倒置
詳しい解説は
【解説】ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは 在原業平
春日野の若紫のすりごろも しのぶの乱れ限り知られず
読み:かすがのの わかむらさきの すりごろも しのぶのみだれ かぎりしられず
出典:
- 伊勢物語1段『初冠』
作者:
在原業平
現代語訳
春の野の紫草で染めた衣のしのぶもぢずりのではないが、あなたをしのぶばかりに心の乱れは限りもないものです
修辞のポイント
- 3句切れ
- 序詞・・・「春日野の若紫のすりごろも」
- 掛詞・・・信夫(しのぶ)―偲ぶ(しのぶ)
- 縁語・・・衣―乱れ 若紫―春日野
- 比喩・・・若紫⇒姉妹
詳しい解説は
【解説】伊勢物語 初冠の和歌
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに
読み:みちのくの しのぶもじずり たれゆえに みだれそめにし われならなくに
出典:
- 伊勢物語1段『初冠』
作者:
河原左大臣(かわらのひだりのおほいまうちぎみ)
現代語訳
みちのくの 摺り衣のしのぶもぢずりの模様のように、あなたではない他の誰のために心が乱れはじめる私ではないのに
修辞のポイント
- 2句切れ
- 枕詞・・・陸奥の
- 序詞・・・「陸奥のしのぶもぢずり」
- 縁語・・・乱れ そめ
- 掛詞・・・「そめ」は「初め」と「染め
詳しい解説は
【解説】陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに 河原左大臣
名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
読み:なにしおはば いざこととはむ みやこどり わがおもふひとは ありやなしやと
出典:
- 古今集411
- 伊勢物語の9段『東下り』
作者:
在原業平
現代語訳
その名にふさわしいとすれば、さあきいてみよう。都鳥よ、私の思うあの方は無事でいるのかどうか
修辞のポイント
- 2句切れ 3句切れ
- 倒置
詳しい解説は
【解説】名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと 在原業平
思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも
読み:おもいあらば むぐらのやどに ねもしなむ ひじきものには そでをしつつも
出典:
- 伊勢物語 第3段「ひじき藻」
作者:
在原業平
現代語訳
あなたが私を思ってくださるのなら、荒れた宿でも一緒に寝ましょう。ひじき藻ではないが、敷くならお互いの袖を敷いてでも
修辞のポイント
- 3句切れ
- 「ひじきも」「しきもの」を掛けている
詳しい解説は
【解説】思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも 在原業平
筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
現代語での読み:つついつの いづつにかけし まろがたけ すぎにけらしな いもみざるまに
作者
作者:在原業平
出典:
出典:伊勢物語 23段 筒井筒
和歌の意味
筒井戸を囲う井筒の高さと測り比べた私の背丈はもう枠の高さを越してしまったようだ あなたに逢わないうちに
修辞のポイント
- 4句切れ
- 「過ぎ」は「背丈」と「年月」の二つの主語が考えられる
詳しい解説は
【解説】筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
読み:よのなかに たえてさくらの なかりせば はるのこころは のどけからまし
出典:
- 古今集411
- 伊勢物語 第82段「渚の院」
作者:
在原業平
現代語訳
もしこの世の中に全く桜というものがなかったなら、春における人の心はのどかであるだろうに
修辞のポイント
- 句切れなし
詳しい解説は
【解説】世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平
起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ
現代語での読み:おきもせず ねもせでよるを あかしては はるのものとて ながめくらしつ
作者
作者:在原業平
和歌の意味
起き上がりもせず、寝ているわけでもなく夜を明かしては、春の季節のものである雨を眺めながらぼんやりと物思いに耽って過ごしたことだ
句切
- 句切れなし
修辞
- 対句
- 掛詞
起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ 在原業平
行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり 解説
読み:ゆくみずに かずかくよりも はかなきや おもわぬひとを おもうなりけり
出典
『伊勢物語』第50段『紀有常』
作者
読み人知らず
現代語訳
流れてゆく水の上に指で数を書くよりもはかないことは、思ってくれない人を思うことだ
つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
現代語での読み:ついにゆく みちとはかねて ききしかど きのうきょうとは おもわざりしを
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
「伊勢物語」の125段『つひにゆく道』
現代語訳と意味
いつか最後に歩む道だとは前から聞いていたが、まさかそれが昨日や今日だとは思いもしなかった
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして
現代語での読み:つきやあらぬ はるやむかしのはるならぬ わがみひとつは もとのみにして
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
古今集15 747・「伊勢物語」の第4段『月やあらぬ』
現代語訳と意味
月は昔のままの月ではないのか。春は昔の春ではないのか。月も春も昔のままなのに、私のこの身だけが変わらない