【解説】草野心平『ゆき』 の詩  

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【解説】草野心平『ゆき』 の詩

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草野心平の詩『ゆき』が朝日新聞の天声人語欄で紹介されました。

教科書、教材にも取り上げられる『ゆき』の全文を掲載、鑑賞します。

『ゆき』草野心平の解説

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タイトルはひらがなの『ゆき』、『ゆき』の作者は草野心平で、中学校3年生の国語教科書に掲載されています。

草野心平の詩は他にも、

【解説】春の歌 草野心平”蛙の詩人”の擬音の楽しさと表現技法

他の雪の詩は

【解説】雪 三好達治「太郎を眠らせ太郎の屋根に雪ふりつむ」の表現技法

教科書の詩 教材に掲載される有名な詩一覧

 

草野心平『ゆき』の全文

草野心平の詩、タイトルはひらがなの『ゆき』です。

下が詩の全文です。

ゆき  草野心平

しんしんしんしん
しんしんしんしん

しんしんしんしん ゆきふりつもる
しんしんしんしん ゆきふりつもる
しんしんしんしん ゆきふりつもる
しんしんしんしん ゆきふりつもる

しんしんしんしん
しんしんしんしん

 

『ゆき』の鑑賞

「しんしん」の「しん」は32回使われており、それがこの詩の特徴であるとともに、詩人草野心平の独自性を表すものとなっています。

この詩を様々な角度から鑑賞してきましょう。

 

『ゆき』の形式

『ゆき』の形式は次のように考えられます。

  • 3連
  • 口語自由詩

『ゆき』は間に行を挟んだ3つのまとまりでできている 3連の詩です。

言葉は、私達が普通話している言葉 口語 が用いられています。

575などの定まった字数を持たない 自由詩です。

よってこの詩は 口語自由詩 といえます。

 

『ゆき』の特徴

『ゆき』の大きな特徴は、ひらがな表記の他に「しんしん」のオノマトペ、擬態語といわれるものです。

「しんしんしんしん」

が一つのまとまりで、その他にあるのは

「ゆきふりつもる」

だけです。

この詩の構成は

  • 「しんしんしんしん」
  • 「ゆきふりつもる」

の組み合わせのみなのです。

そこに込められた意味が、詩の内容です。

「しんしん」のオノマトペの効果

  • 「しん」は32回の繰り返し
  • 雪の途切れなく降る様子
  • 雪の聴覚的な様子・・・静けさ
  • 雪の視覚的な様子・・・雪の景色の幅広さ 奥深さ

この効果は上のようにまとめられます。

雪の途切れなく降る様子

「しんしん」がたくさん連続することで、雪が途切れなく降っていることが表されています。

詩の聴覚的な効果

「しんしん」は主に

「雪がしんしんと降っている」

と使われるものですが、この詩では「しんしんと」ではなく「しんしん」だけが、雪の擬音としても用いられています。

「しんしん」は雪の降る音のない音を表すだけではなく、それを繰り返し用いることで、雪が途切れなく連続して振り続ける様子を表していると思われます。

詩の視覚的な効果

ゆき,草野心平

また、「しんしん」が占める視覚的な広さ、詩の上での面積の大きさは、雪の景色の幅広さ、奥深さを思わせます。

しんしんの漢字

「しんしん」は漢字を当てることもできます。

静々  深々  雪々 心々   新々   進々 神々 真々   降々   森々

 

どの漢字を思い浮かべるか、どれとどれを同時に思い浮かべるか、あるいは漢字を思わないかでもニュアンスが違ってきます。

  • 静々・・・静かな様子
  • 深々・・・雪がだんだん積もっていく様子
  • 神々・・・雪が白くてこうごうしい様子

などです。

その人の思い浮かべるものでよいのです。正解はありません。

草野心平の『ゆき』の別の詩

草野心平にはこの他に『ゆき』のバリエーションがあり、それは下の詩です。

『ゆき』

しんしんしんしんゆきふりつもる
しんしんしんしんゆきふりつもる
つもる つもる

ニレにもポプラにもアカシにも
やねにいぬにもでんちゅうにも
つもる つもる

ひるまのゆきはとりのにこげ
よなかのゆきはガラスのこな
つもる つもる

ゆきはひとびとのむねをはずませ
ゆきはひとびとのこころをきよめ
つもる つもる

しんしんしんしんゆきふりつもる
しんしんしんしんゆきふりつもる

 

こちらは、最初の『ゆき』にないものとして

ニレにもポプラにもアカシにも
やねにいぬにもでんちゅうにも

と場所が示されています。

他にも

ひるまのゆきはとりのにこげ
よなかのゆきはガラスのこな

という比喩もみられます。

また、

ゆきはひとびとのむねをはずませ
ゆきはひとびとのこころをきよめ

と雪と人の心の対照も記されます。合わせて鑑賞してみてください。

詩の感想

私自身のこの詩の感想です。

ある意味、詩らしい詩であるのですが、どうしてでしょうか、私は2つのフレーズしかない、最初の『ゆき』のほうが好きです。

最初の『ゆき』は、白一色の雪景色のようです。他のものは何もありません。

また、極めて静かで心が波立つこともありません。

詩は言葉の芸術です。しかし、不思議なことにたくさんの言葉があるから良い詩なのではないようです。

言葉による作品でありながら、たくさんの言葉をいれなくてもいい、そういう詩もあるのだと気づかされる作品です。

 

草野心平について

草野 心平(くさの しんぺい

日本の詩人。1903年(明治36年)5月12日 福島県生まれ。高村光太郎、中原中也らと交流。「蛙」「富士山」「天」「石」などを主題にした詩や、独特のオノマトペに特徴がある。1984年 いわき市名誉市民、1987年 文化勲章受章。詩集に『第百階級』『凹凸』など。




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