振り向けばなくなりさうな追憶のゆふやみに咲くいちめんの菜の花 河野裕子  

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振り向けばなくなりさうな追憶のゆふやみに咲くいちめんの菜の花 河野裕子

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振り向けばなくなりさうな追憶のゆふやみに咲くいちめんの菜の花

河野裕子の有名な現代短歌の代表作の意味と句切れ、文法や表現技法について解説、鑑賞します。

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振り向けばなくなりさうな追憶のゆふやみに咲くいちめんの菜の花の解説

読み:ふりむけば なくなりそうな ついおくの ゆうやみにさく いちめんのなのはな

作者と出典

河野裕子 第一歌集『森のやうに獣のやうに』

河野裕子短歌代表作 歌人で夫の永田和宏との相聞

現代語訳

振り向けば消えてなくなってしまいそうな追憶の中の夕闇に一面に咲いている菜の花よ

語と文法の解説

  • 文語定型
  • 旧仮名遣い
  • 「ふりむけば」は順接仮定条件「ふりむいたので」「ふりむいてみれば」などの意味

句切れと表現技法

  • 句切れなし
  • 体言止め
  • 結句字余り

解説と鑑賞

河野裕子の第一歌集『森のやうに獣のやうに』でよく知られる歌。

文語の定型の短歌で、旧仮名遣いが使われている。

旧仮名遣いとは

漢字音の古い発音や音韻を表記するためにつくられた仮名遣いのこと。

この歌だと

振り向けばなくなりうな追憶のゆやみに咲くいちめんの菜の花

の2つがそれに当たる。

「さ」は新仮名遣いだと「そ」、「ふ」は「う」にあてられる。

旧仮名遣いはこの歌人の多くの歌か、またはすべての歌に共通する特徴です。

短歌の表記は新旧取り混ぜてということはあまりなく、歌人によってどちらかが選択されることが多いです。

一首の構成

歌の理解に大切なのは、短歌に特有の構成を知るのが大切です。

上句の「振り向けばなくなりさうな」は、「追憶」についての修飾語です。

追憶の内容が「ゆふやみに咲くいちめんの菜の花」の光景です。

歌の情景

その光景が振り向けばなくなってしまう。

つまり、作者は菜の花の方に向いているのですが、体の向きを変えるとそれがもう見えなくなってしまうと同時に存在すらかき消されてしまう。

追憶というのはそのようにはかない、自分の中にだけあるものだという感慨を表しているようです。

音調と表記の特徴

この歌には、旧仮名遣いとあいまって、音調の美しさがあります。

また、それを際立たせるために「ゆふやみ」や「いちめんの」は漢字を使わずにひらがなで表記されています。

ひらがな表記も意識的なものであり、歌人によって工夫される表現のひとつともいえます。

表記と実際の音が、記憶のはかなさをそのまま表していると言えるでしょう。

字余りの効果

「いちめんの菜の花」の部分は通常7音のところを9音で詠まれています。

定型を超える字数が字余りですが、この部分はそれによって菜の花が果てしなく続く様子を表していると考えられます。

『森のやうに獣のやうに』の他の短歌

夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと

逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと

たとへば君 ガサツと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれのか

ブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり

言ひかけて開きし唇の濡れをれば今しばしわれを娶らずにゐよ

振りむけばなくなりさうな追憶の ゆふやみに咲くいちめんの菜の花

森のやうに獣のやうにわれは生く群青の空耳研ぐばかり

わが頬を打ちたるのちにわらわらと泣きたきごとき表情をせり

 

河野裕子プロフィール

河野 裕子 かわのゆうこ

1946年7月24日 - 2010年8月12日

河野 裕子は、日本の歌人。「塔」選者。夫は歌人の永田和宏。長男永田淳、長女永田紅も歌人。 宮柊二に師事。瑞々しい言葉で心情をのびやかに表現した。晩年は乳がんに苦しみ、生と死に対峙する歌を詠んだ。歌集に『ひるがほ』、『桜森』、『母系』などがある。

-フリー百科事典Wikipedia「河野裕子」

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