冬の駅ひとりになれば耳の奥に硝子の駒を置く場所がある【解説】  

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冬の駅ひとりになれば耳の奥に硝子の駒を置く場所がある【解説】

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冬の駅ひとりになれば耳の奥に硝子の駒を置く場所がある

作者大森静香の教科書掲載の短歌の解説、鑑賞を記します。

冬の駅ひとりになれば耳の奥に硝子の駒を置く場所がある の解説

読み:ふゆのえき ひとりになれば みみのおくに がらすのこまを おくばしょがある

作者と出典

大森静佳 歌集「てのひらを燃やす」

現代語訳と意味

現代語で読まれた短歌ですので、訳はそのままで。

意味は読み手によって様々な意味が考えられます、ひとつの例としての全体の意味は

冬の駅においてひとりきりになる機会があったので、ふと耳の奥に硝子の駒を置く場所があることに気が付いた

注:意味について詳しくは以下の「解説」に記載しています。

句切れと表現技法

  • 口語定型
  • 初句切れ
  • 字余り

解説

現代の歌人、大森静佳の教科書掲載の歌。

朝日新聞の「うたをよむ」コラムに紹介されました。

同時に紹介された他の2首は

歌の意味

「うたをよむ」においてのこの歌の解説は

さプ請けいな冬の駅でも「硝子の駒」という一語を詠み込むだけで、凛とした美しさを帯びる。それが、言葉の力だ。 (出典:https://www.asahi.com/articles/DA3S15784950.html

という説明でした。

一首の鑑賞

意味がどのようにも想像できる歌です。

一首を頭から読んでいきます。

初句切れ

「冬の駅」は名詞で終わっているので、初句切れです。

「冬の駅で(文語なら「に」)」の「で」に当たる言葉がなく、次の言葉とのつながりがなく唐突です。

初句切れは、強調したい言葉を頭に置くときに効果的です。

ここでは、冬の駅は大切なシチュエーションですが、「どこそこのなになにで」の書き出しなので、特に強調の意味はないと思われます。

助詞を補うと字余りになるので、名詞で終わりにして初句切れとなったのでしょう。

「ひとりになれば」の意味

「ひとりになれば」は、順接仮定条件。

この歌は、口語で読まれた歌として読めますが、順接仮定条件は古典的な語法です。

「なれば」は「もし、ひとりになれば」ではなく、「ひとりになったので」という意味となります。

歌の状況

「冬の駅においてひとりきりになる機会があったので」、そのような状況だったのでという状況の特別であることを述べています。

夏の駅でも以下の気づきは起こらなかったし、一人でなく誰かがいればそれも起こらなかったのでしょう。

「硝子の駒」の意味

下句で大切なのは「硝子の駒」です。

この言葉に惹かれるかどうかで、読み手にとってのこの歌の魅力が違ってきます。

「硝子の駒」はもちろん耳に入るようなものではなく、一つの比喩でしかありません。

「硝子の駒」がどのようなものかは読む人によって違うでしょう。

「硝子の駒」の意味

「駒」というのは、意味は何かというと

1 馬。
2 将棋・チェス・双六(すごろく)などで、盤上に並べて動かすもの。
3 自分の手中にあって、意志のままに動かせる人や物。
4 バイオリン・三味線などの弦楽器で、弦を支え、その振動を胴に伝えるために、弦と胴の間に挟むもの。
5 刺繍糸を巻くときに用いるエの字形をした糸巻き。
6 物の間にさし入れる小さな木片。
7 紋所の名。

このうちの何かが「駒」です。

たいていの方は、 将棋・チェス・双六の駒を思い浮かべるかもしれません。

「耳の奥に硝子の駒を置く場所がある」の「置く場所がある」とはどういうことか。

たとえば将棋だと将棋盤の上にマス目があり、そこが駒の置き場所として定められています。

そのような置くべき場所があるという意味なのでしょう。

そして、そのことに冬の駅に一人でいるとそのような場所があったことに気が付いたというのが全体の意味です。

この歌の感想

この短歌の私の感想を記しておきます。

折しも将棋ブームのころなので、「硝子の駒」を最初から「将棋の駒」と読み違えてしまいました。

だったとしても同じことになるかもしれません。しかし、木製ではなく硝子であるということで印象は大きく違ってくると思われます

大森静佳の他の歌

蛍光ペンかすれはじめて逢えぬ日のそれぞれに日没の刻あり
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浴槽を磨いて今日がおとといやきのうのなかへ沈みゆくころ
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大森静佳プロフィール

大森静佳(おおもり・しずか)
1989年、岡山県生まれ。歌人。「塔」編集委員。2010 年、大学在学中に第56回角川短歌賞を受賞。歌集に『てのひらを燃やす』(第58回現代歌人協会賞、第20回日本歌人クラブ新人賞、第39回現代歌人集会賞)、歌集に『カミーユ』『ヘクタール』。

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