秋の日の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
作者聖武天皇の万葉集の短歌の現代語訳、句切れや語句、品詞分解を解説、鑑賞します。
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秋の日の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
読み:あきの日の ほだをかりがね くらけくに よのほどろにも なきわたるかも
作者と出典
聖武天皇 万葉集 巻8・1539
現代語訳
秋の日の穂田を刈るのではないが、その雁が、暗いのに夜明け近くに鳴き渡っているよ
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語句と文法の解説
- 穂田…稲穂の出た田
- 雁がね…本来は、雁の鳴き声のことだが、ここでは雁そのものをいう
- 暗けく…形容詞の基本形「暗し」のク活用
- ほどろ…夜が明け始めるころ。明け方。
句切れと修辞について
・句切れなし
・「秋の日の穂田を」は「刈」にかかる序詞
「刈」と「雁(かり)」は掛詞
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解説と鑑賞
「天皇の御製歌(おおみうた)二首」と題されるうちの第一首で、聖武天皇作とされる。
「御製」とは天皇の歌を呼ぶ呼び名。
歌に使われる技法
夜明けに鳴く雁の声を詠う内容で、「秋の田の穂田を」までが序詞、「刈」と「雁」は掛詞という技法が使われている。
そして、「(あきのひ)のほだ」と「のほど(ろ)」の音韻の一致に工夫がある他、「かり(がね」」「くらけく」のカ音、「日の」「穂田」「ほどろ」のハ行の連続も効果をあげている。
「ほどろ」は、元は雪のまだらに積もった様子を指す言葉だが、夜が「まだらに」明け始めの様子をこの言葉で表したものとされており、この言葉の仕様にも工夫がみられるといえる。
昼と夜の対比
「秋の日の」というのは、秋の昼間のことであるが、3句で「暗けくに」とあるので、昼で始まって、3句以下は夜の情景になる転換と対比がある。
さらに、「秋の日」の昼に関しては「刈」の作業があり、「夜のほどろ」には同じ音の「雁(かり)」という凝った解釈もある。
第二首目の歌
第二首目の歌は下の歌。
今朝の朝明(あさけ)雁がねさむく聞きしなへ野辺(のへ)の浅茅ぞ色づきにける
斎藤茂吉『万葉秀歌』の評
「秋の田の穂田を」までは序詞で、「刈り」と「雁」とにかけて。しかし、この序詞は意味の関連があるので、かえって序詞としては巧みでないのかもしれない。御製では「暗けくに夜のほどろにも鳴きわたるかも」に中心があり、暗中の雁、暁天に向かう夜の雁を詠嘆したもうたのに特色がある。
聖武天皇とは
聖武天皇 しょうむてんのう
701〜756 奈良時代の天皇(在位724〜749)
文武天皇第1皇子。母は藤原不比等の娘宮子。皇后は藤原不比等の娘光明子(光明皇后)。積極的に唐の文物制度を採用するなどして国政を充実させた。一方,仏教をあつく信仰し,国分寺・東大寺大仏を創建し,天平文化をつくりだした。
和歌は万葉集に11首、新古今集以下の勅撰集には8首入集している
聖武天皇の他の歌
秋の日の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも 聖武天皇
「万葉秀歌」について詳しく
『万葉秀歌』は斎藤茂吉の万葉集解説の名著 岩波新書/内容紹介