「しのぶれど」に始まる百人一首の和歌の作者、平兼盛は1月21日が忌日です。
きょうの日めくり短歌は、平兼盛の命日にちなみ、「しのぶれど」の歌の現代語訳と意味をお知らせします。
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しのぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
読み:しのぶれど いろにいでにけり わがこいは ものやおもうと ひとのとうまで
作者と出典
平兼盛(たいらのかねもり)
百人一首 40 他「拾遺集」
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一首の全体の意味
一首の全体の意味は
誰にも知られないように秘めていた恋なのに、顔に出てしまったようだ。恋に悩んでいるのかと人にきかれるまでに
というものです。
歌の主題は「忍ぶ恋」。
つまり、隠れた恋愛と、その関係ということですね。
忍ぶ恋というと、どうしても女性が歌うという趣がありますが、ここでは、男性の立場からの秘めた恋のことを詠っています。
「しのぶれど」の「ど」は逆説
「しのぶれど」の「ど」は、逆説で、「しのんでいたけれども」「かくしていたけれども」の意味で、この場合の「しのぶ」は「隠す」の意味になります。
「しのぶ」の他の意味
「しのぶ」には、他にも、「偲ぶ」の漢字にみられる「過去や遠くの人・所を恋い慕う」という意味もあります。
ここでは、おそらく「忍ぶ」と「偲ぶ」の両方の意味の掛詞なのでしょう。
「しのぶ恋」で有名な歌人
忍ぶ恋で他に有名なのは、式子内親王です。
「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする」
の「忍ぶ」は、これと同じで、「隠している気持ちが表れてしまうので、それならばいっそ死んでしまいたい」といういみになります。
「色に出でにけり」の意味
この歌で分かりにくいのは、この「色に出にけり」というところです。
この「色」というのを、赤青黄のような色と思っているのでわかりにくいのですが、この「色」は顔の表情のことをいいます。
今の言葉なら「顔に出てしまった」というのと同じことですね。
「物や思う」の疑問
で、その、顔に出てしまったことが、どうしてわかるのかというと、それが歌の下の句
物や思うと人の問うまで
です。
「物を思う」というのは、「物事を思い悩む。 思いにふける」、つまり、悩みがあるということ。
「物や」の「や」は疑問の終助詞で、本当は「ものを思うや」の「思う」の方につくのですが、「ものや」と先んじて「もの」の方についています。
その場合は「ものを思う」全体が疑問となり、「(恋に)お悩みなのですか」というのがこの部分の意味です。
「人」は周りの人のことで、そのように、人に悟られてしまうようになるまでに、悩みが深いことが顔に出てしまったということなのですね。
そして、これは恋の悩みですから、悩みが深いということは、つまり、相手を恋する思いが、「そのくらい強い」ということなのです。
「かくしておけない、人のことなどかまっておれないくらい、あなたに夢中なんですよ」というのが、歌の裏の意味です。
歌合の結果は平兼盛の勝ちに
この歌は、「天徳歌合」という「歌合」。歌を2種並べて優劣を競うというこの時代の催しですが、組み合わされた歌が、百人一首の次の歌
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひ初めしか (壬生忠見)
です。
歌合では、壬生忠見と平兼盛それぞれの歌が、どちらもすぐれていると判断され、いったんは引き分けになったものの、その時、平兼盛の歌を「天皇が口ずさんでいた」ことが目撃され、兼盛の歌が勝ちとなりました。
もっとも小倉百人一首では、両方の歌が採択されていますので、どちらも甲乙つけがたい出来というべきであるでしょう。
きょうの日めくり短歌は、平兼盛の忌日にちなみ、兼盛の「しのぶれど」についてご紹介しました。
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