青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介の教科書・教材にも使われる有名な俳句の意味、表現技法の解説を感想と合わせて記します。
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青蛙おのれもペンキぬりたてか
読み:あおがえる おのれもぺんき ぬりたてか
作者と出典:
芥川龍之介
現代語訳
アオガエルよ お前の体もペンキ塗り立てなのかい
切れ字と句切れ
・切れ字なし
・初句切れ
季語
季語は「青蛙」 夏の季語
表現技法
比喩と擬人法
形式
有季定型
解説
芥川龍之介のユーモラスで有名な俳句。
アオガエルの鮮やかな色をペンキの色に例えている。
俳句の元はルナール『博物誌』
この俳句の元は、ルナールの『博物誌』にある「ペンキ塗りたて、ご用心!」にあり、一種の本歌取りともいえる。
ただし、この生き物は「青いとかげ」になっている。
芥川龍之介はこのトカゲを蛙に見立てたのだが、トカゲよりもさらに蛙の濡れたような背中の色が塗りたてのペンキに適しているとは言えないだろうか。
また、ルナールの元の文との違いは、ルナールはトカゲの呼びかけではなくて遠めに見た見立てであるのに対して、芥川は蛙に直接呼びかけている。
なお、「青蛙」の「青」は、青田と同じく黄緑と緑の中間のような鮮やかな緑色を差す。
「ペンキ塗り立て」の比喩
ペンキを塗ったばかりの物は、つやつやと濡れたように輝いてみえる。
この俳句では、蛙の色に着目、「ペンキ塗り立てのような」という比喩が隠されている。
ペンキ塗り立てのものは、通常跡が付くためにさわってはいけないという表示があるものが多い。
たとえば「ペンキ塗り立て 触るるべからず」などと記された紙などが脇に貼られており、周辺の人は注意をする必要がある。
そのために「塗りたてか」どうかをアオガエルに聞いているわけだが、それには「お前に触ってはいけないのかな」という含みもある。
この句の他の解釈
他に、この句にはペンキが一種の虚飾を表し、芥川が表層だけの自分の貧しさを表した句との解釈もある。
「おのれも」の擬人法
「おのれも」の意味は「お前も」に同じで蛙を人に見立てており、一種の擬人法であると同時に、人に対するように親しい呼びかけが感じられる。
「おのれも」の「も」には、「ペンキを塗った他の物と同じように(さわってはいけない)」という意味合いがある。
また、しっとりと湿っていずれも緑色に輝いている草にアオガエルが囲まれている情景も想像できる。
ペンキ塗り立てであれば、青ガエルはペンキが乾くまではあたりの物に自分が触ってもいけなくなるだろう。
そのため、少し緊張して戸惑ったようなじっとしている青蛙の姿も想像できてほほえましい。
この句をよく読むと、ルナールに着想があるといっても、内容はかなり違ったものとなっていることがわかるだろう。
河童のメタファー
芥川龍之介には『河童』という小説があり、芥川はその中で自らを河童に見立てており、人間の世界を「河童の世界」に置き換えてアイロニーに満ちて描き出している。
僕は河童も蛙のやうに水陸両棲の動物だつたことに今更のやうに気がつきました。『河童』より
河童はもちろん空想上の人物だが、同じ水辺の生物として蛙との類似は容易にあげられる。
しかし、小説を読むとあくた吾がにとって蛙は河童よりもさらに卑下すべきイメージを持った生物であったことがわかる。以下『河童』より
「勿論あなたも御承知でせう、この国で蛙だと言はれるのは人非人と云ふ意味になること位は。」
さらに続いて、自分への問いとして
「――己は蛙かな? 蛙ではないかな? と毎日考へてゐるうちにとうとう死んでしまつたものです。」
「それはつまり自殺ですね。」
と小説の登場人物に言わせている。
小説『河童』の河童と蛙は芥川のアイデンティティーの問いでもあった。
芥川龍之介と斎藤茂吉
なお、他に、芥川龍之介が進行があり、その作品を敬愛していた斎藤茂吉の短歌集『あらたま』には、青蛙を題材にした一連があることも付記しておく。
芥川は、「自分の短歌に対する目は斎藤茂吉に開けてもらった」という意味のことを書いており、その縁もあって、精神が不安定になった芥川は斎藤茂吉に診察を受けていた。
双方にとって不幸だったのは、その処方薬であった睡眠薬で自殺を遂げたことである。
芥川の忌日7月24日は「河童忌」と呼ばれている。
私自身のこの俳句の感想
深刻でまじめな作品が多い芥川龍之介にこのようなユーモラスな俳句があることがおもしろいです。考えてみれば『河童』もそれと同じように元々はユーモアのある着想といえます。
芥川龍之介の他の俳句
水涕や鼻の先だけ暮れ残る
青蛙おのれもペンキぬりたてか
兎も片耳垂るる大暑かな
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
木がらしや目刺にのこる海のいろ
初秋や蝗つかめば柔かき
芥川龍之介について
1892-1927 東京生まれ。東大卒。小説家。別号は我鬼 澄江堂主人。東京帝国大学卒。
夏目漱石の門に入り菊池寛、久米正雄らと第3次「新思潮」刊行。大正文学の中心作家の一人。代表作は初期には「鼻」「芋粥」。他に「羅生門」「地獄変」「河童」「或る阿呆の一生」など。睡眠薬自殺を遂げる。息子は芥川 比呂志(俳優)、芥川也寸志(作曲家)がいる。7月24日は河童忌。