心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春のけしきを
能因法師の和歌の代表作品の現代語訳と解説を記します。
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心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春のけしきを
読み:こころあらん ひとにみせばや つのくにの なにわわたりの はるのけしきを
作者と出典
能因法師 後拾遺集43
現代語訳
情趣を理解するような人に見せたいものだ。 この津の国の難波あたりの素晴しい春の景色を
意訳:あなたのようなもののあわれを深く感じる人だからこそお誘いしたい。難波の津の国の景色を一度見においでなさい
※能因法師の他の歌は
能因法師の代表作和歌作品
解説
こちらも能因の代表作の一つ。
和歌の背景
歌の詞書に
正月許に津の国に侍りける頃、人のもとに言ひつかはしける
(正月、津の国に住んでいた頃、人の所へ手紙を遣わした)
とあるため、「心あらむ人」というのは、手紙を送った相手のこと。
和歌の意味
特定の相手に贈ったものであることを踏まえると
「あなたのようなもののあわれを深く感じる人ならとりわけ美しいと感じてお誘いの意味が分かってくださるだろう。難波の津の国の景色を一度見においでなさい」
という意味になるだろう。
難波の景色について
津の国は大阪付近で当時の難波には広大な干潟があり、芦が多く生えていた。
そのため、春は海上には霞がたちこめ、水辺の葦原は若葉が萌え出て絵のように美しかったと言われている。
津の国の他の和歌
津の国は当時の人には有名で、他の和歌にもたくさん詠まれている。
津の国の難波の春は夢なれや 蘆の枯葉に風わたるなり
現代語訳:
摂津(せつつ)の国の難波のあの美しい景色の春は夢だったのだろうか。 今は芦の枯れ葉に風が吹き渡っていくばかりだ
作者は、西行。新古今和歌集・625。
能因の歌を本歌取りしたもので、春ではなく冬の難波の景色をうたっている。
他にも
津の国のこやとも人を 言ふべきにひまこそなけれ 葦の八重葺き
現代語訳:
津の国の昆陽(こや)ではないが、ぜひおいでなさいというべきなのだが、葦の八重葺きに隙間(ひま)がないように、来る暇もないだろう
作者は和泉式部。
「津の国」と「葦」が縁語。
「こや」は「昆陽」で摂津の地名、「来や」が掛詞となっている。。
能因法師の他の和歌
心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春のけしきを
都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関
武隈の松はこのたび跡もなし千年を経てや我は来つらむ
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能因法師の代表作和歌作品
能因法師について
西暦988年-1051年。平安時代中期の僧侶・歌人。俗名は橘永愷。法名は初め融因。近江守・橘忠望の子で、兄の肥後守・橘元愷の猶子となった。中古三十六歌仙の一人。
『後拾遺和歌集』に31首、勅撰和歌集に67首が入集している。