鳴けや鳴けよもぎが杣のきりぎりす過ぎゆく秋はげにぞかなしき
作者曾禰好忠(そねよしただ)の後拾遺和歌集の代表作品の現代語訳と解説を記します。
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鳴けや鳴けよもぎが杣のきりぎりす過ぎゆく秋はげにぞかなしき
読み:なけやなけ よもぎがそまの きりぎりす すぎゆくあきは げにぞかなしき
作者と出典
出典: 後拾遺和歌集<秋上・二七三>
作者: 曾禰好忠(そねよしただ)
※後拾遺和歌集と代表作品は
後拾遺和歌集の代表作一覧と現代語訳
現代語訳と意味
鳴けよ鳴け。蓬が杣山のように茂っている叢の蟋蟀ヨ。過ぎゆく秋は本当に悲しいものだ
句切れと修辞法
- 初句切れ 三句切れ
- 散文語「げに」の使用
参考:
和歌の修辞法をわかりやすく解説
語句
- 鳴けや鳴け・・・命令法鳴けや・・・「や」は呼びかけの間投助詞 「鳴けよ」に同じ
- 蓬・・・「よもぎ」食用にもなる植物。菊に似た花が咲く
- 杣・・・「杣山」と共に山林とその山の言
- きりぎりす・・・コオロギを指す
- げに・・・和歌には本来使われない散文語
- ぞ・・・係助詞 強調と歌調を整える
解説
暮れ行く秋を惜しむ気持ちを読んだ歌。
詞書
「題知らず」との詞書がある。
「題知らず」とある所から、歌の題は不明であり、背景は詳しく伝わっていない。
鑑賞
秋の暮れ、すなわち晩秋の風景と、季節に伴って起こる作者の悲しみを表現した和歌。
作者曾禰好忠は中古三十六歌仙の一人で、新風をもたらした歌人。
「蓬が杣」は作者の造語とされており、特定の地名のことではない。
初句を「鳴けや鳴け」と秋を代表する風物であるコオロギに呼びかけているもので、既にコオロギが鳴いているので、それに向かってさらに「もっと鳴け」と言った。
コオロギの鳴き声という聴覚的な効果がある。
「蓬が杣」は山林のことで、コオロギが目の前にいるのではなく、やや離れたところで鳴いているという空間の広がりをプラスする。
「蓬」は菊に似た草のことであるが、山林の下か手前に緑の野草が茂っており、コオロギはその下にいて鳴いている。
コオロギはもちろん、一匹だけではなく群れて鳴いているので、その声が離れたところにいる作者の家か宿りに聞こえてきている状況であろう。
和歌の構成
上4句は外界の情景の描写と時期を伝えるものだが、最後の「げにぞかなしき」が作者の感興、思いとしてストレートに述べられている。
そこから「鳴けや鳴け」が作者の「秋が去ってしまうのは悲しい」との思いからコオロギに呼びかけられていることがわかるだろう。
秋が過ぎて冬に入ってしまえば、コオロギはもはや鳴かないどころから、命がない。
コオロギの今だけの命と残り少ない秋の時間は同義であり、人と同じ生きているものとしてのコオロギへの擬人的な呼びかけが作者の思いの強さを表している。
「げにぞ」というのは、「げに」と「ぞ」の組み合わせだが、「本当に」のいみの「げに」は和歌には使われない言葉とされている。
あえて散文語を使ったところに作者の真情が伝わるともいえる。
また、濁音を2つ含む「げにぞ」は、その後に続く「かなしき」を音調の面からも強く強調しているという技法がある。
曾禰好忠について
曽禰好忠の読みは「そねのよしただ」。
生没年不詳。平安時代中期の歌人で、中古三十六歌仙の一人。
役職は下級貴族とされる。
『今昔物語』には、円融院の御遊に呼ばれもしないのに参加して追い払われ悪態をついたというエピソードが記されている。
ただし、『小右記』は違った内容なので、あくまで説話であるとされているが、それだけ歌人として注目されていたと言えるだろう。
曾禰好忠の歌の特徴
曾禰好忠の歌の特徴としては、常識や成約にこだわらない、奔放な表現を取り入れる個性的で天才肌の歌人との見方がなされている。
上の歌においても、「げに」という歌には使わない言葉を取り入れている点もその好例だろう。
曾禰好忠の他の和歌
他の和歌としては百人一首に選ばれた下の歌が有名。
百人一首46番