木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
作者はよみひとしらず。「心づくし」との秋の情緒を表す言葉で知られる、古今和歌集の和歌の現代語訳と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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読み:このまより もりくるつきの かげみれば こころづくしの あきはきにけり
作者と出典
作者:読み人知らず
出典:古今集 184
現代語訳と意味
木の枝の間から漏れてくる月の光を見ていると、悲しい思いの限りを尽くさせるその秋が来たのだなあ
句切れ
句切れなし
語と文法
・木の間…読みは「このま」。木の枝の間
・もりくる…もれるの基本形「もる」と「来」の連体形の複合動詞
意味は「もれてくる」
・かげ…「つきかげ」のことで、月の光のこと
・見れば…順接確定条件 「~すると」の意味
心づくし
・心づくし…こころ づくし 「人のためにこまごまと気をつかうこと・物思いに心をすり減らすこと。悲しみ悩むこと」
ここでは後者の意味
「きにけり」の品詞分解
・「き」は、来るの意味の基本形「来(く)」の連用形
・「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形
・「けり」は詠嘆の助動詞 「…だなあ」「ものよ」などと訳す
解説と鑑賞
「こころづくし」の語がポイントで、他に悲しみを指す言葉はなく、この言葉で秋の悲しさが表現されています。
この歌により「心づくし」は、秋の情緒を表すことばとして使われるようになりました。
源氏物語では「須磨(すま)にはいとど心尽くしの秋風に…」と、この言葉が歌から引用されて使われています。
「悲秋」
この和歌のコンセプト、主題は「悲秋」というもので、漢詩から摂取された秋の雰囲気です。
この時代の和歌は、「悲秋」をどのように表現したらいいかを競いあいました。
その悲しみを誘い出すのが、月の光ですが、光という言葉を使わずに、「月の影」といって、これも秋の悲しさを増強させています。
また、初句の「木の間より」で、月の光が一面に照り渡っているのではなくて、枝の間にほそぼそと漏れてくる様子、わずかに月の存在を知らせるものとして、秋にまつわる心の陰影をも表します。
一連の他の歌
おほかたの秋くるからにわが身こそかなしき物と思ひしりぬれ
わがためにくる秋にしもあらなくに虫の音きけばまづぞかなしき
物ごとに秋ぞかなしきもみぢつつうつろひゆくを限りとおもへば
ひとり寝る床は草葉にあらねども秋くるよひは露けかりけり
いつはとは時はわかねど秋の夜ぞ物思ことのかぎりなりける