八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ 柿本人麻呂の「八雲立つ」に始まる出雲の子らを詠った万葉集の代表的な短歌作品の現代語訳、句切れや語句、品詞分解を解説します。
斎藤茂吉の「万葉秀歌」の評も記します。
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八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ
読み:やくもさす いづものこらが くろかみは よしののかわの おきになづさう
作者と出典
柿本人麻呂 巻三・四三〇
現代語訳
八雲の湧く出雲の娘子の黒髪が、吉野の川の沖に揺らめいている
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語句と文法の解説
・八雲さす…「出雲」にかかる枕詞
・出雲(いづも)…今の島根県
・子ら…「や」は親しみを込めて呼ぶ意味 複数形ではない
・吉野の川…吉野川
・なづさふ…水に浮いて漂う
※枕詞については
枕詞とは 主要20の意味と和歌の用例
「八雲さす」「八雲立つ」は出雲の枕詞
「八雲さす」「八雲立つ」は出雲の枕詞です。
『古今和歌集』仮名序では「八雲立つ」の歌を31文字の始まり、すなわち和歌の始まりとしており「八雲」は和歌の別名。
和歌の道、歌道を「八雲の道」といいます。
万葉集にある「八雲立つ」の歌とは下の和歌です。
句切れと修辞について
句切れなし
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解説と鑑賞
一首の解説と鑑賞を記します。
「出雲娘子」の二首のうちの一首
「出雲娘子」(いづものおとめ)が吉野川で溺死するという事件があり、それを吉野で火葬に附した時、柿本人麿の歌った歌二首の一つ。
もう一首は
山の際(ま)ゆ出雲の児等は霧なれや吉野の山の嶺に棚引く」(巻三・四二九)
意味:山の間から出雲の娘の霧となったものだろうか、それが吉野の山の頂上の辺りにたなびいている
というもので、この「霧」は火葬の際の煙のこと。
掲出の歌の、黒髪が吉野川の水にたなびくというのは、実際の景色ではなくて、柿本人麻呂の想像上の情景だが、この短歌は追悼歌の意味がある。
斎藤茂吉が言う通り、亡くなった人のそれとわかる特徴を聞いて、「黒髪が美しかった乙女」として歌に詠み込んだのであろう。
おそらく、火葬の際の追悼文として、その場で読み上げられたものと思う。
斎藤茂吉の解説
斉藤茂吉の「万葉秀歌」の解説は以下の通り。
生前美しかった娘子の黒髪が吉野川の深い水につかってただよう趣で、人麿がそれを見たか人言に聞きかしたものであろう。いずれにしてもその事柄を中心として一首をまとめている。
そして人麿はどんな対象に逢着しても熱心に真心を籠めて作歌し、自分のために作っても依頼されて作っても、そういうことは殆ど一如にして実行した如くである。
柿本人麻呂の経歴
飛鳥時代の歌人。生没年未詳。7世紀後半、持統天皇・文武天皇の両天皇に仕え、官位は低かったが宮廷詩人として活躍したと考えられる。日並皇子、高市皇子の舎人(とねり)ともいう。
「万葉集」に長歌16,短歌63首のほか「人麻呂歌集に出づ」として約370首の歌があるが、人麻呂作ではないものが含まれているものもある。長歌、短歌いずれにもすぐれた歌人として、紀貫之も古今集の仮名序にも取り上げられている。古来歌聖として仰がれている。
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