テーマ別短歌

「春の雪」を詠んだ短歌・和歌 斎藤茂吉,石川啄木,与謝野晶子,島木赤彦

更新日:

3月も半ばを過ぎて、昨日はお彼岸でした。

春彼岸に思い出す歌と言えば、斎藤茂吉の「うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪」があります。

春の雪というのは独特の風情があり、古くから短歌のモチーフとして歌われています。今日は春の雪を詠んだ短歌を集めてみました。

スポンサーリンク



春の雪を詠んだ短歌

春の雪を詠んだ短歌の近代短歌から探してみました。

うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪

読み:うつつにしもののおもいをとぐるごとはるのひがんにふれるしらゆき

作者と出典:

斎藤茂吉「暁光」

現代語訳

現実のこの世にものの思いを遂げるかのように、春の彼岸に降る白雪であるよ

解説と鑑賞

もう、冬も終りの頃になって雪が降るというのは、稀なことであるだけに、何かの願いがかなう象徴のようだというのが歌の意味です。
この時、茂吉は50歳代にして、20代の永井ふさ子に出会い、恋愛を成就しようという時でしたので、その相手のことを思ってのことであり、美しい作品です。

春の雪みなぎり降りぬ高山のつらなり延ぶるみなみ独逸に

読み:
はるのゆきみなぎりふりぬたかやまのつらないのぶるみなみどいつに

作者と出典:

斎藤茂吉「遍歴」

現代語訳

春の雪がみなぎって降っている。高い山々が連なって伸びているこの南ドイツの地に

解説と鑑賞

斎藤茂吉がドイツ留学をした時の風景。高い山々はアルプス連峰につながる眺めでしょうか。

それにしても、茂吉が詠む山は皆素晴らしい山だと思わせるものばかりです。

 

春の雪みだれ降る日に西北の郊外にゐるをとめ訪ひたり

作者と出典:

斎藤茂吉「遠遊」

現代語訳

「春の雪が乱れて降っている日に、西北の郊外にいる乙女を訪ねたのであるよ」

解説と鑑賞

こちらも海外での風景。

乙女を訪ねるという、ほのかな心の高ぶりが「春の雪」と重ねられて詠われている、こちらも美しい作品です。

 

はるの雪二日二夜を降りつづくこよひの寒さおもほゆるかも

読み:はるのゆきふつかふたよをふりつづくこよひのさむさおもほゆるかも

作者

窪田空穂

現代語訳

「春の雪が二日降り続いていて今日の夜は寒いだろうと思われる」

解説と鑑賞

春の雪が降り続くさまを見て、そこから自然と思いつくことを、素直に歌った作品です。

 

五つとせむつまじかりし友のわかれ城のひがしに春の雪踏む

読み:いつつとせむつまじかりしとものわかれしろのひがしにはるのゆきふむ

作者:

与謝野鉄幹

現代語訳

「5年親しく交わってきた友との別れに、城の東側の道に春の雪が積もっているのを踏みながら行く」

解説と鑑賞

あるいは与謝野晶子と添う前の歌でしょうか。

「友」とありますが、春の雪はやはり女性とのシーンにふさわしいでしょう。

他に、「師の君の御袖によりて笑むは誰ぞ興津の春の雪うつくしき」

 

春の雪たわわに降れり上加茂の村につづける堤の松に

読み:はるのゆきたわわにふれりうえかものむらにつづけるつつみのまつに

作者:

与謝野晶子

現代語訳

春の雪がたわわに降っている。故郷上加茂の村に続く川堤の松の枝に

解説と鑑賞

おそらく晶子が、故郷に向かう道で出会った、春の雪の光景。久しぶりに見るふるさとに豊かに降り続く雪に郷愁もひとしおです。

 

思ふ人姿を借りて恋しやと云はしむるごと春の雪降る

読み:おもうひとすがたをかりてこいしやといはしむるごとはるのゆきふる

作者:

与謝野晶子

現代語訳

「私が思う人が雪の姿を借りて、恋しいと思はせるように、春の雪が降っているのです」

解説と鑑賞

相聞歌、恋愛の歌です。
春の雪を見て、恋しい人への思いが募る。ああ、これは、恋しい人が雪の姿を借りているからだと思う女性の心を表しています。

他に

ある刹那ふためきて降りある刹那のどかに降りぬ春のあわ雪

春の雪雛の顔ほどほの白くあえかに覗くものの梢に

 

春の雪/銀座の裏の三階の煉瓦造りに/やはらかに降る

読み:はるのゆきぎんざのうらのさんがいのれんがづくりにやわらかにふる

作者

石川啄木『一握の砂』

現代語訳

春の雪が銀座の裏にあるレンガ造りの三階建ての建物の壁にやわらかく降っている

解説と鑑賞

石川啄木の出身は岩手県。それから北海道の小樽や函館に移住して仕事をしていたこともあります。

この雪は、銀座、すなわち東京の雪であり、啄木の感じる雪よりは、ずっと「やわらかに」と言えるでしょう。

また、煉瓦造りの、煉瓦の赤い色との白い雪との対比で、お洒落な都会的な雰囲気も感じられます。

 

春の雪おほくたまれり旅立たむ心しづまり炉にあたり居り

読み:はるのゆきおおくたまれりたびだたんこころしずまりろにあたりおり

作者

島木赤彦

現代語訳

春の雪が、外にたくさん降り積もっていて、旅に出ようとはやる心もしずまって火にあたっているのだよ

解説と鑑賞

春になったので、旅に出ようと心が浮き立つ気持ちが、春の雪にあってしずまったという、微妙な心の動きを歌っています。
春の雪の、静かさと共に、どこか豊かさをも醸し出す雰囲気が伝わります。

 

春の夜の雪の觸らふ音すなり松はかすかに立つにしあらむ

読み:はるのゆきのゆきのさわらうおとすなりまつはかしかにたつにしあらむ

作者

島木赤彦

現代語訳

春の雪が物に当たりながら降るかすかな音が聞こえてくる。松の木はその雪にかすみながら立っていることだろう

解説と鑑賞

雪がかもしだすかすかな音。それは松の木に雪が降っている、その音だろう。

そのようにまず聴覚から得られることを述べ、そこから、松の木が雪を受けながら、雪の中にしろく煙りながら立つという視覚イメージを導き出しています。

たいへん繊細な歌であり、これもやはり春の雪がもたらすものなのです。

他に、「紅梅の花にふりけるあわ雪は水をふくみて解けそめにけり」も春の雪を詠ったもの。

 

もりかげのふぢのふる根によるしかのねむりしつけきはるの雪かな

読み:もりかげのふじのふるねによるしかのねむりしつけきはるのゆきかな

作者

会津八一

現代語訳

森蔭の藤の古根に寄って、眠る鹿の眠りも静かだろう、この春の雪の中では

解説と鑑賞

森と木、鹿と春の雪の光景が美しい。そして、鹿の眠りという想像を加えて、春の雪の静けさを表しています。

 

春の雪の和歌

ここから古典和歌を三首取り上げます。

君がため春の野に出でて若菜摘む我が衣手に雪は降りつつ

読み:きみがためはるののにいでてわかなつむわがころもでにゆきはふりつつ

作者と出典

光孝天皇『古今集』

現代語訳

あなたにさしあげるため、春の野原に出かけて若菜を摘んでいる私の着物の袖に、雪がしきりに降りかかってくる

解説と鑑賞

百人一首にもある有名な歌です。

繊細であると同時に、あたたかな恋愛の情感が醸し出されています。

霞たち木の芽も春の雪降れば花なき里も花ぞ散りける

読み:かすみたちきのめもはるのゆきふればはななきさともはなぞちりける

作者と出典

紀貫之「古今集」

現代語訳

春霞が立って木の芽も芽吹く春、その春の雪が降るので花の咲いていない里にも花の様に散ることだよ

解説と鑑賞

雪を花と見立てて、春の雪が降る里の美しさを詠んだものです。

しっとりとした情感が美しい作品。

雪の内に春はきにけりうぐひすのこほれる涙今やとくらむ

読み:ゆきの内にはるはきにけりうぐいすのこほれるなみだいまやとくらむ

作者と出典

二條后 「古今和歌集」

現代語訳

「雪がまだ降っているのに、もう春が来てしまった。 冬の間じゅう凍っていた鶯の涙は、今はもうとけているであろうか」

この場合の「春」は立春だろうという意見が大半です。

「立春なのにまだ雪が降っている」を「雪が降っているのに」と逆にしているわけですが、雪と春との取り合わせを述べています。

そして、雪の中で凍っていた鶯、その涙も溶けて、春に向けて鳴きはじめるだろうかという意味ですが、おそらく、作者は自分自身の恋の傷心をなぞらえているのでしょう。

春の雪の短歌、いかがでしたか。
今年は雪が少ないようですが、もし春の雪に会ったら、上記を参考にご自分でも短歌を詠んでみてくださいね。





tankakanren

-テーマ別短歌

error: Content is protected !!

Copyright© 短歌のこと , 2019 All Rights Reserved Powered by STINGER.