教科書の短歌

君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ/北原白秋 表現技法の解説

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君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

北原白秋の代表的な短歌作品、一首の現代語訳と、「さくさくと」の詩的で大胆な共感覚的な擬音の効果を始め、表現技法について解説、鑑賞します。

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君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

読み:
きみかえす あさのしきいし さくさくと ゆきよりんごの かのごとくふれ

現代語訳と意味

君を帰そうと見送っていると、朝の敷石の上に雪が落ちてくる。雪よ、林檎の香りのように降っておくれ。

作者と出典

北原白秋 『桐の花』

表現技法

・「さくさくと」…擬音

・全体を雪に向かって呼び掛けている

語と文法

・「朝の敷石」のあとには、「に」の助詞が省略されると思われる

・「君かえす」の「君」の後には、「を」が省略

・「かえす」は「帰る+させる」の使役

・「降れ」は命令形

解説と鑑賞

この歌の解説と鑑賞です

歌の背景

北原白秋のロマンチックな恋愛の歌。

「君」は当時交際中であった隣家の人妻俊子を指し、作者は朝になって、相手を家に「帰す」ことになった場面であると思われる。

この場合は、「帰す」よりも、夫の元に「返す」と言ってもよく、そのために「かへす」をひらがなにしたのだったのかもしれない。

通常の別れではなく、その上、夫の元に帰すのであるから、作者の内心は複雑な心境でもあったろう。

明らかにできない自分たちの関係もあり、帰っていく彼女が見とがめられないように、雪に隠してもらいたいとの思いもありそうだ。

また、自分たちの関係を美しく、作者自身の心の葛藤も隠そうとする強い気持ちもあり、何者かに訴えたい強い気持ちもあったと思われる。

単に美しいだけの恋愛の歌ではなく、どこかに救いや助けを求める気持ちが、思わず「雪よ」と呼びかけるものとなったのだろう。

美しいだけではなく、切実な強い気持ちが「雪よ」と表現されながら、歌の雪とその修辞の美しさに中和され、確かに二人の関係は文字の上でも”見えなく”なっているところが多い。

短歌は、31文字という短い詩系なので、何かを見せることの方が難しく、むしろ何かを隠すのはたやすいことのようだ。

「さくさくと」の擬音の使い方

この歌の一番の魅力は、「さくさくと」の擬音にある。

ダブルイメージの擬音

作者は、「さくさく」を雪が降るときの副詞句として、「さくさくと・・・降る」と用いている。

「さくさく」はさらに、ここでは敷石の上の、雪を踏む音をも連想させるのだが、通常「さくさく」は林檎を食べるときの擬音であり、複数のものにかかり得る多重の擬音として機能する。

「さくさく」の音の効果

さらに、音の上では、あえてサの音とクの音とでなる擬音を用いたことで、音声上の独特の効果が生じている。

婚外恋愛の関係が、清澄な恋愛と見まごうのも、この言葉、特に音の効果にあるだろう。

共感覚的な表現

「さくさくと…降れ」の間には、さらに「りんごの香のごとく」との修辞が入っている。

「りんごのように降れ」では、意味をなさないため、「香のごとく」なのだろうが、無味無臭である雪に「リンゴの香りのごとく現代詩の中で、自由に豪奢な比喩を使いこなした北原白秋らしい、大胆な比喩を短歌の中に持ち込んだとも言えるだろう。

さらに「雪」の視覚や、「さくさく」の食感や、りんごの「香」の嗅覚など、五感に訴えるものが多彩に散りばめられているため、気が付かないうちに、読者は歌の中の「君」と相まって、感覚的な豊かさの中に踏み込まされる感がある。

わかりやすくいうと、「さくさくと降る」は、短い表現ではあっても、「さくさく→踏み石の感触と音」「さくさく→リンゴの食感と音」という多重で共感覚的なイメージを呼び起こす表現なのである。

「しんしん」の擬音の流

三句に擬音を入れる効果は、斎藤茂吉の「死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる」の「しんしんと」が、当時歌壇で大流行したということがあり、作者がそれに代わるものとして挿入したとも考えられる。

斎藤茂吉の表現も、「夜がしんしんとふける」「蛙の声がしんしんと」の多重なもので、当時としては異例の傑出したものだが、白秋のものはより詩的であって白秋のものらしい印象を受ける。

白秋には、他にも「しんしんと」を思わせる「深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花」というのがあって、この「深々と」も「しんしんと」とも「ふかぶかと」とも読める。

また「人間笑う」の茂吉に類似の表現もあり、この時代の白秋と茂吉の作品は、共通の表現や技法を多く含むものともなっているのも興味深い点である。

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