「ふりさけて三日月見れば一目見し人の眉引き 思ほゆるかも」大伴家持の有名な代表作短歌について解説します。
大伴家持の万葉集の秀歌一覧は前の記事 大伴家持『万葉集』の代表作短歌・和歌一覧 にございますので、併せてご覧ください。
スポンサーリンク
ふりさけて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも
読み:ふりさけて みかづきみれば ひとめみし ひとのまよびき おもおゆるかも
作者
大伴家持 6巻・994
現代語訳:
ふり仰いで三日月を見ると、一目見たあの人の眉が自然と思われる
大伴の家持の歌一覧
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも/大伴家持「春愁三首」
解説
大伴家持の有名な歌の一つ。
家持が16歳くらいの時の作品と言われており、家持の処女作として扱われることが多い歌で、これまでも議論が重ねられている作品です。以下に要旨をまとめてみます。
それぞれの用例と出典
「ふりさけて」は「ふりさけみる」のことで、意味は「ふり仰いで、はるか遠くを見る」のこと。
月を対象に「ふりさけみる」と「三日月」については、それぞれ万葉集に二例しかなく、「一目」も万葉集に9首のみであり、いずれも人麻呂歌集にあることから、家持はこれらの歌に学んだものでしょう。
「眉引き」については、「眉引き」というのは、眉墨を引いた眉のことですが、これも万葉集に2例であることから、斎藤茂吉が「勉強の後が見られる」と述べたと思わます。
また、「三日月を眉に例える」という例は、漢詩に多く見られるため、漢詩からの取入れもあり、相聞の歌のように見えますが、万葉集の「相聞」ではなく、6巻の「雑歌」に配置されています。
大伴家持のこの歌の主題
それまでの歌を取捨しながら、それ以上に家持がねらったところ、つまりこの歌の主題は、三日月を眉にたとえるという斬新な漢詩的表現をそこに導入し、両者を融合して新しい歌境を開こうとしたところにあるとされます。
歌の調子について
「ふりさけてみかづきみれば」の大きな歌い出しには、おおらかな伸びやかさがあり、おもほゆるかも」もゆったりとしています。
内容も調子にふさわしく初々しくも多感な少年の若々しいロマンチシズムと繊細な情感にあふれています。
家持の作品の基調
大切なことは、この処女作の性格の持ち味は、その後家持の作品の基調となっているということです。
特にある種のきらびやかな漢詩の世界からの取り入れ、詠物詩への関心、また、それまでの万葉集に学びながらも、16歳の若い家持が積極的に独自の世界を打ち出していこうという意欲のみられる記念碑的な作品なのです。