七夕短歌の歴史は古く七夕伝説は万葉集の時代にも広く伝わっています。
七夕を題材に詠まれた短歌を近代、現代短歌から集めました。
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近代の七夕の短歌
七夕の短歌は古くは万葉集にも見られます。
彦星と織姫の悲しい恋の物語「七夕伝説」は、その頃から伝わったもので、多くの歌が詠まれました。
万葉集の七夕の短歌は
そのあとの古今・新古今集の七夕の短歌は
この記事では、近代から現代の七夕の短歌を紹介します。
よひよひに天の川なみこひながめ恋こふらしとしるらめや君
作者は与謝野晶子
この歌は最近、新しく与謝野晶子の手紙に記されたものが発見されました。
これも七夕伝説と兄を待つ思いを重ね合わせたものです。
与謝野晶子には他にも七夕の歌を詠んだものがあります。
たなばたをやりつる後(のち)の天の川しろうも見えて風する夜かな
天の川そひねの床のとばりごしに星のわかれをすかし見るかな
たなばたをやりつる後の天の川しろうも見えて風する夜かな
浪華がた浮標ごとに火をさせる海の上なる天の川かな
たなばたや簾の外なる香炉のけぶりのうへの天の河かな
いもうとと七夕の笹二つ三つながるる川の橋を行くかな
― 「恋衣」
中から一つ、恋愛と重ねて詠まれたものを取り上げましょう。
たなばたの星も女ぞ汝(な)をおきて頼む男はなしと待つらん
意味は
「七夕の織姫も女。 あなた以外に信頼する男はいないとやはり私のように待っているのでしょうか」
おそらく鉄幹に当てて送ったものでしょうか。晶子らしい歌でもあります。
ぬば玉の牛飼星と白ゆうの機織姫ときょうこいわたる
作者は正岡子規
意味は
彦星と織姫は今日七夕が恋の思いを遂げる日だ
というもの。
他に
天地(あめつち)に月人男照り透り星の少女のかくれて見えず
「月人男(つきひとおとこ)」とは月のことで、この語は万葉集にあるものですが、月が擬人化されてもいたのですね。
この歌では、月が男性で、星が女性とされています。
この正岡子規の「星」連作10首の一連は、冒頭に、芥川龍之介が「侏儒(しゅじゅ)の言葉」で書いた「真砂まさごなす数なき星のその中に吾われに向ひて光る星あり」を含むものです。
他にも
七夕の千夜を一夜と待ちわびて一夜を千夜と契るけふ哉
こちらは子規にしては、かなりロマンチックな歌ですね。
七夕に至るまでのいくつもの夜を、ただ一日のために待っている。
そしてその日が来ればまるで千日に匹敵するかのような一夜として、二人が逢瀬を楽しむというのです。
他の近代短歌の七夕歌をご紹介します。
七夕の笹の葉がひにかそけくもかくれて星のまたたく夜かも
作者は太田水穂
意味は、七夕の笹の葉の間に星の瞬きが見えるというもので、夕の夜が晴れたことも伝えています。
よく磨らむ愛し女童七夕は磨る墨のいろの金に顕つまで
作者は北原白秋の「七夕の日に擦る墨の色が金色になるまで女児が擦ってくれているよ」という意味の歌。
七夕はやはり特別な日として詠まれています。
七夕の現代の短歌
七夕の現代の短歌には次のようなものが思い出されます。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
俵万智の歌集タイトルの短歌で、直接の七夕ではないのですが、
「日にちはまず七夕の7日を思い付いたものの、何でもない普通の日こそ記念日と思える歌にしたいと考え、6日を選んだ」
と作者が後に成り立ちをtwitterで説明されています。
どちらにしても忘れられない歌ですね。
七夕の日暮れて竹に風早し色紙のいろ流るるが見ゆ
作者は宮柊二。
七夕の星を映すと水張りしたらひ一つを草むらの中
七夕の日暮れて笹に風が吹きつけて、短冊の色紙の色が流れるように見える。
もう一首は、草むらの中のたらいの水の面に、七夕の星が光っているという神秘的な情景です。
七夕の宵に生まれて人恋ふる性(さが)のあはれを母はいたみき
作者岡野弘彦の七夕の短歌で、この歌を読むと、作者が7月7日に生まれたことがわかります。
そのために「人を恋するように生まれてしまった、そのひたむきな性質を母がかわいそうに思ってくれた」という意味の歌です。
夕星はほのに浮き来ぬ葉生姜を下げてゆくなり織女にあらず
作者は米川千嘉子、歌集『夏色の櫂』より。
「夕星」は「ゆうずつ」と読み金星のこと。その星の下を、初夏の野菜の葉生姜を下げていく。
「織姫ではないけれども」ということで、普段の生活との取り合わせを詠んでいます。
もう一首は
夏銀河こぼれ牽牛星死なしめてひた読めばすずしかりし足穂よ
わたくしの暗がりで夫が濡れてゆく七夕飾りの匂ひさやさや
作者は川野里子『太陽の壺』より。
七夕の夜の愛の交歓を詠ったもの。
作者は一年に一度しか会えない恋人たちをふと思ったのでしょう。
邂逅の間(あひ)充たしつつ冬の織女(ヴェガ)われのいづこに熟るるその星
作者は今野寿美。歌集『花絆』より
こちらは、夏ではなくて冬の琴座のヴェガを詠んだものなのですが、「織女」ということは、やはやり七夕への結びつきがあります。
逢いの合間を思う時、心は自然に織姫を思うのでしょう。
この家を出ていきたいと七夕の星につくづく願ひをかける
作者は西橋美保。歌集『うはの空』より
作者は夫の家族と同居して、舅にDVを受けたようです。
家庭内の暴力はなかなか表に出にくいものなのですが、作者は歌に詠むことでそれを表しました。
スカートのなかで左右の内ももが触れあつてゐる雨の七夕
作者大崎瀬都の七夕の短歌。歌集『メロンパン』より。
七夕の日が雨だということは、作者も離れて会えない恋人のことを思ったものかもしれません。
その際の、微妙な身体感覚が詠まれています。
まとめ
七夕の短歌、いかがでしたか。
伝統のある七夕の歌、この機会に皆様もぜひ歌を詠んでみてくださいね。