春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕
北原白秋の代表短歌作品の現代語訳と句切れ、表現技法について記し ます。
高校の教科書に掲載されている作品です。
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春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕
読み:
はるのとり ななきそなきそ あかあかと とのものくさに ひのいるゆうべ
現代語訳と意味
春の鳥よ鳴いてくれるな。赤々と外の草に日の日が照っている。
それ以上鳴かれると、私の心まで哀しくなってしまうから。
作者と出典
北原白秋 『桐の花』 冒頭作品
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表現技法
・二句切れ
・「外の面」の読みは「とのも」
・「な鳴きそ鳴きそ」の反復。
訳せば「鳴くなよ鳴くな」
・「あかあかと」… 「あか」「あか」を重ねた言葉は「畳語」と呼ばれる。
文法
・「な鳴きそ鳴きそ」は「…するな」の意味
「そ」は禁止の意味を表す終助詞
・「日の入る」…日が沈む
・「夕」は一文字で「ゆうべ」と読ませている
・歌の終わりが名詞なので体言止め
修辞法については、この歌には比喩はなく、特に修辞として述べられるものはない
「な……そ」の用例
下の歌の例を挙げる
こちふかばにほひをこせよ梅のはな あるじなしとて春なわすれそ
【作者と出典】 菅原
【意味】 春の東風が吹いたら、また美しい花を咲かせておくれ、梅の花よ。主がいなくても、春に花咲くのを忘れてくれるなよ。
体言止めの例
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
――栗木京子
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
――俵万智
解説と鑑賞
「春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕」
この歌の解説と鑑賞を書きます。
歌の意味と情景
野の草に入日の光が当たっている夕方、ノスタルジックで物悲しい一日の終わりの風景に一人面している時に、外の鳥の声が、自分の目の前の風景である世界をいとおしむ気持ちに呼応するように聞こえてくると、切ない気持ちが募ってしまう。
胸が迫って、どうしようもなく、その時に聞こえる声に向かって「小鳥よ、鳴かないでおくれ」と語り掛ける青年の気持ちが表されている。
同語同音反復のリズムにポイント
この歌のポイントは、「な鳴きそ鳴きそ あかあかと」の言葉のリズムにある。
この部分の「なきなき」(あ行+か行)、「あかあか」の同じ(あ行+か行)の繰り返しを味わいたい。
「な鳴きそ鳴きそ」の句切れでいったん文としては切れるのだが、「あかあか」と連続した(あ行+か行)の繰り返しが続くことで、文の切れ目ではあっても、音韻の連続性が高いことで、一首の統一性が高まっていることに注意したい。
森鴎外の歌の会で詠まれた
この歌は、明治41年7月、森鴎外の家で開かれた歌の会、「観潮楼歌会(かんちょうろうかかい)の「戸」の題詠で詠まれた。
おそらく「外の面」は最初は「戸の面」か、または「戸」を含む言葉であったものと思われる。
「外の面」→「とのも」の読みの定着
「外面」は「ともの」か「そとも」か、読みがはっきりしていなかったが、白秋のこの歌が有名になるにつれて「外面」が定着したと、宮地伸一氏が述べている。
この「外面」の言葉があるのは、正岡子規の歌、
「ガラス戸の外面に夜の森見えて清(さや)けき月夜に鳴くホトトギス」
であるが、私個人の意見では、白秋の歌が、この歌の影響を受けた可能性があるとも思われる。
斎藤茂吉の影響
また、「あかあかと」は、斎藤茂吉が『赤光』『あらたま』で多用した表現で、当時有名なものだった。
北原白秋と茂吉は相互に影響を与え合った。
斎藤茂吉の歌の例:
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
万葉調の取り入れ
斎藤茂吉は、正岡子規の流れのアララギ派の歌人であり、「万葉調」に特徴がある。
北原白秋の「な鳴きそ鳴きそ」は、古い表現でもあり、「万葉調」を意識して取り入れたものとも思われる。
歌人の田谷鋭は、「な鳴きそ鳴きそ」がこの歌の主眼であり、これを使いたいために、この歌を作ったとまで言っている。
北原白秋の他の短歌
銀笛のごとも哀しく単調に過ぎもゆきにし夢なりしかな
しみじみと物のあはれを知るほどの少女をとめとなりし君とわかれぬ
いやはてに鬱金んざくらのかなしみのちりそめぬれば五月はきたる
葉がくれに青き果を見るかなしみか花ちりし日のわが思ひ出か
ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫ひそめし日
北原白秋について
北原白秋 1885-1942
詩人・歌人。名は隆吉。福岡県柳川市生まれ。早稲田大学中退。
象徴的あるいは心象的手法で、新鮮な感覚情緒をのべ、また多くの童謡を作った。
晩年は眼疾で失明したが、病を得てからも歌作や選歌を続けた。歌集「桐の花」「雲母集」他。
―出典:広辞苑他