袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ
紀貫之の古今和歌集に収録されている和歌の現代語訳と修辞法、詠まれた季節などの解説、鑑賞を記します。
古今和歌集の選者であり、古今和歌集の序文「仮名序」の作者である紀貫之の和歌を読んでいきましょう。
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袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ
そ
現代仮名遣い
旧仮名遣いと現代仮名遣いを対照します。
旧仮名 :そでひちて むすびしみづの こほれるを はるたつけふの かぜやとくらむ
現代仮名:そ
- 水(みづ)⇒みず
- 凍る(こほる)⇒こおる
- けふ⇒きょう
- らむ⇒らん
作者と出典
紀貫之 古今集 春歌上 2
現代語訳と意味
夏のころ知らず知らず袖を濡らしながらすくいあげた水が、寒い水のあいだ凍っていたのを、立春の今日のあたたかい風がとかしているであろうか
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解説
紀貫之の古今集の最初「春歌」の2番目の歌。
詞書
「春立ちける日、よめる」との詞書があります。
語句と文法
- ・ひちて・・・「ひつ」が基本形の動詞 4段活用 意味は「ぬれる」
- ・むすびし・・・「掬(むす)ぶ」と書く。手を合わせて水をすくうこと。
- ・「し」は過去の助動詞(基本形「き」)なので、「むすんでいた」の意味となる
- ・こほれる・・・「こほる」+完了の助動詞「り」
- ・春立ちて・・・詞書にある「春たちける日」は「立春」の日の意味
- ・けふ・・・「今日」の文語表記 ケフと書いたままで「きょう」とよむ
- ・とくらむ・・・「解く」または「溶く」の氷が溶ける意味。
- ・「らむ」は未来の助動詞「~だろう」の意味
句切れについて
句切れなし
係り結び
「や・・・らむ」
※係り結びの法則は、係り結びは、「ぞ・なむ・や・か」の係助詞は、そのあとの動詞の連体形と結びつき、「こそ」は已然形と結びつく決まり。
係り結びの解説
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
修辞法 掛詞と縁語
この歌の修辞法の要素は以下の通りです。
掛詞
「掬(むす)び」と「結び」、「春」と「張る」、「立つ」は「裁つ」の掛詞(ことば)
縁語
「結ぶ」「張る」「裁つ」「とく(解く)」は「袖」の縁語
この歌は、これらの掛詞と縁語の技巧が凝らされている秀歌とされています。
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袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむの鑑賞
鑑賞のポイントは
ポイント
- 暖かい春風が冬の氷を解かす事象で、春の訪れである立春を表現
- 一首に3つの季節が詠み込まれている
立春の日
立春の日に春の訪れの喜びを詠んだ歌で、季節のうつろいを水と水の凍る変化に焦点を合わせて一首に詠み込んでいます。
また、季節の流れを立春のきょう一日という日に凝縮させています。
3つの季節
もう一つ大切なのが、この短い31文字の中に、3つの季節が詠み込まれているというところです。
- 袖ひちて⇒夏の経験
- 水のこほれる⇒冬の現象
- 春立つ⇒春の訪れ
袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむの歴史的背景
この歌には、中国の五行思想の影響があります。
五行思想とは、万物を木・火・土・金・水 の5つの要素によって解釈するという考え方です。
五行思想では「東」は春の方角を差すため、歌に出てくる風というのは、東から吹いてくる「東風」を表します。
「東風」の読みは「こち」。
意味は春風と同じです。
この歌は、それらを踏まえて「立春」をどう表すかという目的で、詠まれたと考えられます。
紀貫之の歌人解説
868年ごろ~945年 早くから漢学や和歌の教養を身につけた。
古今集の撰者で三十六歌仙の一人。
古今和歌集の仮名の序文、仮名序で歌論を残した。「土佐日記」の著者でもある。
紀貫之の他の和歌
霞たちこのめも春の雪ふれば 花なきさとも花ぞちりける
郭公人まつ山になくなれば 我うちつけに恋ひまさりけり
しら露も時雨もいたくもる山は 下葉のこらずいろづきにけり
ちはやぶる神の斎垣にはふ葛も 秋にはあへずうつろひにけり
霞たちこのめも春の雪ふれば花なきさとも花ぞちりける
吉野川いはなみたかく行く水のはやくぞ人を思ひそめてし