石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子  

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石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子

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石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも

作者志貴皇子のこの歌は、万葉集の四季歌の代表的な作品で、斎藤茂吉も「万葉集中の傑作の一つ」と言っている短歌です。

現代語訳、句切れや語句、品詞分解を解説、鑑賞します。

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石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも

読み:いわばしる たるみのうへの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも

作者と出典

志貴皇子(しきのみこ) 万葉集 巻8・1418

現代語訳

岩をほとばりし流れる垂水のほとりのさわらびが、芽を出す春になったことだ

 

語句と文法の解説

・石走る垂水…「石」または「岩の上を勢いよく流れる」の意味

・垂水…地名 摂津国豊島郡の垂水 または、滝全般を指す

・さわらび…「さ」は接頭語 わらび

・わらびはワラビ科の多年草 春は新芽を食用にする

・「萌い出る」は、基本形「もえいづ」。その連体形

なりにけるかもの品詞分解

  • なり…ラ行四段活用「なる」の連用形
  • に…完了の助動詞「ぬ」の連用形
  • ける… 詠嘆の助動詞「けり」の連体形
  • かも …詠嘆の終助詞 「だよ…」などと訳す

句切れと修辞について

  • 句切れはなし
  • 一首が句切れなく、「春」までの修飾句を含め、ひとつながりに一息に詠めるように作られている 以下参照




 

解説と鑑賞

一首の解説と鑑賞を記します。

万葉集の四季歌の代表

春の雑歌の代表的な歌として万葉集に配置された歌で、17巻の冒頭に置かれている。

詞書には「志貴皇子(しきのみこ)志貴皇子の懽(よろこび)の御歌一首」とあり、春の喜びをうたう歌と思われる。

「石」は「いわ」と読まれる。垂水は地名と思われたが、近来は「滝を指す普通名詞」と理解されている。

一首の構成と調べ

冒頭の「石走る垂水の上のさわらびの萌出づる」は「春」を修飾する形容詞節で、ここまでを一気に読むことで、水の流れを思わせる作りとなっている。

そのような動的な春になったのだという気づきとその心の踊るさまを、水の流れに重ねて表している。

また、「萌出づる」わらびの頭をもたげて一斉に芽が出る様もそれに加わって春のダイナミクスを視覚的に強めるものとなっている。

力強い春の形容が特徴的な叙景かであり、万葉集の四季歌の冒頭にふさわしいものとなっている。

 

斎藤茂吉『万葉秀歌』の評

志貴皇子懽(よろこび)の御歌である。一首の意は、巌の面を音たてて流れおつる、滝のほとりには、もう蕨わらびが萌え出づる春になった、懽ばしい、というのである。

この歌は、志貴皇子の他の御歌同様、歌調が明朗・直線的であって、然かも平板に堕ちることなく、細かい顫動を伴いつつ荘重なる一首となっているのである。御懽びの心が即ち、「さ蕨の萌えいづる春になりにけるかも」という一気に歌いあげられた句に象徴せられているのであり、小滝のほとりの蕨に主眼をとどめられたのは、感覚が極めて新鮮だからである。

この「けるかも」と一気に詠みくだされたのも、容易なるが如くにして決して容易なわざではない。此御歌は皇子の御作中でも優れており、万葉集中の傑作の一つだと謂っていいようである。―「万葉秀歌」より

「万葉秀歌」について詳しく
『万葉秀歌』は斎藤茂吉の万葉集解説の名著 岩波新書/内容紹介




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