万葉集の代表的な短歌としてあげられるもの、20首を選んでみました。
万葉集がどのような歌集で、どのような歌があるのかをコンパクトにご紹介します。
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万葉集の代表的な短歌・和歌の作品
「万葉集」というのは古代の和歌を集めた日本最古の和歌集です。
詩を集めたのが詩集ですが、短歌、それよりも長い長歌、短歌に似ているが、字数が五七七五七七となる旋頭歌(せどうか)など、4536の歌が収められています。
成立の時期は奈良時代の天平宝字3 (759) 年であって、7世紀前半から759年(天平宝字3年)までの約130年間の歌が収録されています。
期間が長いこともあって、編者ははっきりしていないのですが、大伴家持という歌人が、中心になってまとめられたのではないかと考えられています。
歌の数はたいへん多いので、全部がよく知られている歌ではありません。
読んでおいた方がいいと思われる歌を20首に絞ってご紹介します。
万葉集で有名な大伯皇女の短歌はこちらから
大津皇子 大伯皇女の万葉集の和歌まとめ 大津事件の悲劇
関連記事:
万葉集とは何か簡単に解説 一度にわかる歌人と作品
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万葉集の代表的な歌20首
万葉集の代表的な短歌・和歌20首をあげます。
短歌作品と作者、現代語訳と意味を書き添えます。
それぞれの歌の、詳しい解説ページがあるものは、リンク先を示しますので、合わせてごらんください。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
読み:あかねさす むらさきのいき しめのいき のもりはみずや きみがそでふる
作者
額田王 ぬかたのおおきみ
現代語訳
紫草の生えているこの野原をあちらに行きこちらに行きして、野の番人がみとがめるではありませんか。あなたがそんなに私に袖をお振りになるのを
ポイント:万葉集の見事な問答歌として、たいへんよく知られているものです
東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
読み:ひんがしの のにかぎろいの たつみえて かえりみすれば つきかたぶきぬ
作者
柿本人麻呂 1-48
現代語訳
東の野に陽炎の立つのが見えて振り返ってみると月は西に傾いてしまった
ポイント:作者柿本人麻呂は、万葉集随一の優れた歌人です
我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし
読み:わがせこを やまとへやると さよふけて あかときつゆに われたちぬれし
作者
大伯皇女
現代語訳
私の弟を大和へ帰すというので待っているうちに夜が更けて、暁まで立ち尽しているうちに露にすっかり濡れ
ポイント:弟を失うことになった、大伯皇女の姉弟のエピソードと共に記憶される歌です
参考のページ
大津皇子 大伯皇女の万葉集の和歌まとめ 大津事件の悲劇
われもはや安見児得たり 皆人の得かてにすとふ 安見児得たり
読み:われはもや やすみこえたり みなひとのえかてにすとう やすみこえたり
歌の意味
私は安見児を得た 皆の者が得難いとしている安見児を得た
ポイント:結婚の相手を得たの喜びを率直に示した歌です
詳しい解説のページ
われもはや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり 「万葉集」意味と解説
君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
読み:きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく
作者
額田王 ぬかたのおおきみ
現代語訳
あなたを待って恋しく思っていたら、あなたと見まごうかのように私の家の簾を動かして秋風が吹くのです
ポイント:万葉集における代表的な恋の歌です
詳しい解説は下の記事に
春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山
読み:はるすぎて なつきたるらし しろたえの ころもほしたり あめのかぐやま
作者
持統天皇 1-28
現代語訳
春が過ぎて夏が到来したようだ 天の香具山に白い夏衣が干してあるのを見るとそれが実感できる
ポイント:「新古今集」巻3「夏歌」の巻頭歌にも掲げられている有名な歌
詳しい解説のページ
春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山/持統天皇/万葉集解説
銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
読み:
しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも
作者と出典
山上憶良 やまのうえのおくら
「万葉集」803
現代語訳
銀も金も玉も、いかに貴いものであろうとも、子どもという宝物に比べたら何のことがあろう
ポイント:万葉集の代表的な歌人の一人、山上憶良による短歌です。
詳しい解説のページ
銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも 山上憶良 子どもを思う短歌 万葉集
験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし
読み:しるしなき ものをおもわずは ひとつきの にごれるさけを のむべくあるらし
338 作者 大伴旅人
現代語訳:
何の甲斐もない物思いをするくらいなら、一杯の濁り酒を飲むべきであるらしい
ポイント:万葉集の代表的な歌人の一人、山上憶良による短歌です。
詳しい解説のページ
験なきものを思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし 大伴旅人「酒を讃むる歌」
君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも
読み:きみがいく みちのながてを くりたたね やきほろぼさん あめのひもがも
作者
狭野弟上娘子 さののおとかみおとめ
現代語訳:
あなたが行く長い道のりを、手繰り寄せて折りたたんで焼き払う、天の神の火がほしい
ポイント:狭野弟上娘子の夫が流刑にされたときの心情を強く詠んだ歌です。
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
読み:あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと
作者
大伴家持 1-48
現代語訳
新しい年の初めの初春の今日降る雪のように、積もれよ良いこと
ポイント:大伴家持による、万葉集の一番最後の歌として、よく知られています。
詳しい解説のページ
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事/大伴家持
旅人の宿りせむ野に霜降らば我が子羽ぐくめ天の鶴群
読み:たびびとの やどりせんのに しもふらば わがこはぐくめ あめのたづむら
作者
不明 遣唐使随員の母
現代語訳
旅をする人が野宿する野に霜がおりたら、私の息子をその羽で守ってあげてください。空を飛ぶ鶴たちよ
ポイント:遠く旅行く子どもに寄せる母の思いが胸が痛いまでに表現されています。
家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る
読み:たびびとの やどりせんのに しもふらば わがこはぐくめ あめのたづむら
作者
有間皇子
現代語訳
家にいると器に盛る食事だが、旅の途中なので椎の葉に盛る
ポイント:有間皇子が捕らえられて護送されるときの歌であり、苦難が伝わります
詳しい解説のページ
家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る 有間皇子
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ
読み おくららは いまはまからん こなくらん それそのははも わをまつらんそ
現代語訳:
私、憶良はもう退出しましょう。家では、今ごろ子供が泣いているでしょう。その子を負っている母もきっと私を待っているでしょうから
作者:
山上憶良 巻3 337
ポイント:宴会を退席するときに、このように詠んだという歌で、リズムも大変良いです
詳しい解説のページ
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ 山上憶良
防人に行くは誰が背と問ふ人を見るがともしさ物思ひもせず
読み:さきもりに いくはたがせと とうひとを みるがともしさ ものもいもせず
作者
不明 防人の妻
現代語訳:
「防人に行くのは誰の夫かしら」と問う人を見るのがうらやましい。あの人たちは悲しみの物思いをすることもない
ポイント:防人の歌の中でも妻の嘆きを詠った有名な歌です
詳しい解説のページ
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ 山上憶良
たらちねの母が手放れ斯くばかり為方なき事はいまだ為なくに
読み:たらちねの ははがてはなれ かくばかり すべなきことは いまだせなくに
作者
作者不詳 220
現代語訳と意味
生みの母を離れて以来こんなにどうしようもない思いは、いまだかつてしたことがなかったのに
ポイント:年頃になって、両親の元を離れた作者が初めての恋の苦しさを詠んだ歌です。
秋山の黄葉を茂み惑ひぬる妹を求めむ山道知らずも
読み:あきやまの もみちをしげみ まとひぬる いもをもとめむ やまぢしらずも
作者
柿本人麻呂
歌の意味
秋山の紅葉が繁っているので、迷ってしまった妻を探そうにも道がわからないのだ
ポイント:柿本人麻呂の妻を亡くして詠んだ歌です。挽歌のもっとも有名なものの一つです。
万葉集では紅葉は「黄葉」と書かれます。
詳しい解説のページ
紅葉・黄葉の有名な短歌・和歌 万葉集、百人一首より
わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし
読み:わがせこと ふたりみませば いくばくか このふるゆきの うれしからまし
作者
光明こうみょう皇后 万葉集 巻8‐1658
現代語訳
わが夫の君ともし二人で見るのでしたら、どんなにかいま降っているこの雪が喜ばしく思われることでしょうに
ポイント:皇后が、行幸で留守の夫に書き送った歌です
詳しい解説のページ
わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし光明皇后
田子の浦ゆうち出でてみればま白にぞ富士の高嶺に雪は降りつつ
読み:たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりつつ
作者
山部赤人 万葉集 3-318 新古今集675
現代語訳
田子の浦の海岸を先の方まで歩いて行ってそこから見ると、真っ白に富士山の高嶺に雪が降り積もっていることだ
【解説】田子の浦ゆうち出でてみればま白にぞ富士の高嶺に雪は降りつつ/山部赤人/万葉集
朝影にわが身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに
読み:あさかげに わがみはなりぬ たまかぎる ほのかにみえて いにしこゆえに
作者
不明
現代語訳
朝の影のようにわが身はやせ細ってしまった。ほんのわずか逢っただけで去ってしまった娘のために
ポイント:いわゆる恋煩いの歌。「あさかげ」というのは、朝の影が細長く見えるところに、自分の身をなぞらえているのです。
以上、万葉集のたくさんの作品から、よく知られているもの20首をあげてみました。