煙草の短歌 愛煙家の歌人たち【日めくり短歌】  

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煙草の短歌 愛煙家の歌人たち【日めくり短歌】

2021年1月13日

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たばこのピースが発売されたのが、昭和21年。今日はピース記念日、たばこの日です。

現在より昔の方が煙草は多くの人に好まれており、煙草の短歌も思いのほか多く詠まれています。

きょうの日めくり短歌は、たばこの短歌をご紹介します。

たばこの記念日

1946年(昭和21年)のこの日、「ピース」が売り出されたことを記念して、愛煙家が制定したのがピース記念日です。

単なる商品の発売日というだけではなく、当時、たばこは配給制だったので、このピースから煙草の自由販売が始まったそうです。

たばこの短歌

今は健康を考えて煙草は忌避される傾向にありますが、昔の文学者は煙草を吸う人が多く、もちろん、歌人もその例外ではありません。

煙草の詠まれた短歌はどのようなものがあるか、ご紹介していきます。

 

石川啄木の煙草の短歌

空家に入り煙草のみたることありき あはれただ一人居たきばかりに

作者:石川啄木

一首の意味

空き家に入ってタバコを飲んだことがあった。ああ、ただ一人で居たかっただけで

解説

啄木は生活は貧しかったものの愛煙家であったようですね。

 

忘れ来し煙草を思ふ ゆけどゆけど 山なほ遠き雪の野の汽車

作者:石川啄木

一首の意味

忘れてきた煙草のことを思っている どこまでいっても山にもたどり着かない雪原を走る列車に

解説

北海道時代に、うっかり煙草を忘れてきてしまった啄木。

移動の電車での手持ち無沙汰な啄木が浮かびます。

 

島木赤彦の煙草の短歌

くどくいふ女の前におとなしく煙草の煙をふきて居りけり

作者:

島木赤彦

一首の意味

くどくどと言う恋人の前にいて、ただおとなしく煙草を吸っていたのであった

解説

交際をしていた中原静子と別れ話が持ち上がったときの短歌のようです。

相手の女性の訴えに困惑した男性側赤彦が、しきりに煙草を吸っている様子が目に浮かびます。

そして、

今はこころ分らずなりぬ煙草をば吸ひ吸ふままに口苦がくなりぬ

相手の心がわからなくなった、として、考えながら煙草を吸っているうちに口が荒れてしまったというのです。

 

かへらんと今は嘆けれ青空に煙草ふかして見やりけるかも

作者:

島木赤彦

一首の意味

帰ろうとして今は嘆く。青空に向かって煙草をふかして、ただその空を見上げるのだ

解説

「けれ」の已然形止めは、おそらく斎藤茂吉の影響でしょう。

 

橘曙覧の煙草の短歌

たのしみは心にうかぶはかなごと思ひつゞけて煙草(たばこ)すふとき

作者:

橘曙覧(たちばなのあけみ)

一首の意味

楽しみの一つは、心に浮かぶとりとめもないことを思い続けながら、煙草を吸うこの時にある

解説

橘曙覧は江戸時代の歌人。

「たのしみは」ではじまる52首連作の「独楽吟」の中の一首。

 

寺山修司の煙草の短歌

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

作者と出典

寺山修司 『空には本』

一首の意味

マッチを擦ったほんの少しの間の明かりで、海には深い霧が立ちこめている。私が命を捨てるほどの祖国はあるのだろうか。否、ない。

解説

現代短歌でおそらくもっとも有名な煙草のワンシーンと思われます。

ただし、おそらく寺山自身は煙草は吸わなかったでしょう。

 

木下龍也の煙草の短歌

風に背を向けて煙草に火をつける僕の身体はたまに役立つ

作者と出典

木下龍也 『つむじ風、ここにあります』

解説

煙草を吸う主体である人と、煙草に火をつけるという目的とを逆転させています。

同じ煙草に火をつけるシーンであっても、ある意味寺山よりもまじめにシニカルです。

 

藤島秀憲の煙草の短歌

たばこ屋のおばさんがもう泣いている路地より父が運び出される

作者:

藤島秀憲

解説

父上の葬式の一場面。昔は、どこにもたばこ屋さんがありました。

今となってはなつかしい風景です。

 

斎藤茂吉の煙草の短歌

氷きるをとこの口のたばこの火赤かりければ見て走りたり

処女歌集『赤光』にある最も有名な煙草の短歌。

斎藤茂吉自身も愛煙家であり、初期作品には、たばこの短歌がたくさん詠まれてています。

煙草のけむり咽(のど)に吸ひこみ字書(じしょ)の面(めん)つくづくと見る我をおもへよ

ものがくれひそかに煙草すふ時の心よろしさのうらがなしかり

けふ一日煙草をのまずと尊かることせしごとくまなこつぶりぬ

 

下は『あらたま』にある、たばこ畑を詠んだ一連

たどり来て煙草ばたけに密(ひそ)ひそと煙草の花を妻とぬすみぬ

ゆふされた煙草ばたけいかくまれし家念仏すひとは見えなく

一列(ひとつら)に女かがまりあかあかと煙草葉を翻(か)へす昼のなぎさに

あをあをとおもき煙草のひろ葉畑くろき著物の人かがみつも

ひもすがら煙草ばたけに蹲(うづくま)りをみなしづかに虫をつぶせり

ぬすみたる煙草の花の一にぎり持ち歩き来て妻にわたせり

まるくふくれし煙草ばたけの向う道馬車は小さく隠ろひにけり

 

きょうの日めくり短歌は、たばこのピース記念日より、煙草の短歌をご紹介しました。

それではまた明日!

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