われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子 与謝野鉄幹は、歌誌『明星』を主催した歌人、忌日は3月26日です。
きょうの日めくり短歌は与謝野鉄幹の代表作短歌と辞世の句である歌をご紹介します。
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与謝野鉄幹の代表作短歌
与謝野鉄幹は、短歌の本誌『明星』を主宰。妻の与謝野晶子と共に、明星派と呼ばれるまでに、短歌の一スタイルを確立した歌人です。
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与謝野鉄幹の代表作としてまずあげられるのは、下の短歌です。
われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子
読み:われおのこ いきのこなのこ つるぎのこ しのここいのこ ああもだえのこ
作者と出典
与謝野鉄幹 第二歌集『紫』(明治34年)
現代語訳
私は男、 意気盛んな男、名をたてるべき男だ。剣を持って戦う男であり、詩を愛する男。 恋に燃える男でもあり、ああ、それゆえに悩みの深い男でもあるのだよ
解説
明治34年の作。勇壮ないわゆる「ますらをぶり」の歌です。
この頃の鉄幹は、『明星』が軌道に乗り始め、また与謝野晶子との恋愛に悩んでいた頃であったようです。
鉄幹にはすでに妻もいましたが、与謝野晶子はなんといっても短歌の才があります。
結局、鉄幹は晶子を選び、それによって『明星』は近代短歌の一大派閥に成長をしていくのです。
この歌は、繰り返し、リフレインカ行の「こ」の音韻によって、印象に強い勢いのあるものとなっています。
与謝野鉄幹の女性関係
与謝野鉄幹は最初から与謝野晶子の夫ではなく、その時にはすでに滝野という妻がいました。
『明星』はこの滝野の名義で発行されていますが、滝野の実家から結婚の際に資金援助を受けたためであったようです。
また、与謝野晶子と交際中はもう一人、山川登美子とも深い関係になっており、これは晶子の結婚後も続きました。
与謝野鉄幹と山川登美子
登美子の逝去時には、下の歌を詠んでいます。
君なきか若狭の登美子しら玉のあたら君さへ砕けはつるか
君を泣き君を思へば粟田山(あわたやま)そのありあけの霜白く見ゆ
また、最初に登美子逝去の知らせを受け取ったときには、
君亡しと何の伝(つて)ごと 死にたるはおそらく今日の我にはあらぬか
この君を弔ふことはみづからを弔ふことか 濡れて歎かる
と、まるで、登美子の死がイコール自分の死であるかのような歌を詠んでおり、二人の結びつきが深かったことをうかがわせます。
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与謝野鉄幹の子ども時代
鉄幹は、寺の息子でありましたが、養子に出されて母親に早く別れたようです。
親はありきむかし一人の親はありき百合の園生にふとはぐれたり
この歌を見ると、鉄幹の女性関係の華々しさは、あるいは一種の「母恋」に端を発するものではなかったかとも思われるのです。
鉄幹は決して勇ましいますらをぶりの歌人だけではなく、もっと多彩な歌を詠んでもいます。
だからこそ、女性の多かった明星を率いていけたのだったかもしれません。
与謝野鉄幹と文壇照魔境事件
しかし、女性関係の多かった鉄幹を誹謗中傷する「文壇照魔境事件」というのが起こります。
文書による中傷で、「鉄幹は妻を売れり」「鉄幹は処女を狂せしめたり」「鉄幹は少女を鉄殺せんとせり」に始まって、 「鉄幹は明星を舞台として天下の青年を欺罔せり」「鉄幹は詩思の剽窃者なり」とその中傷は作品にも及びます。
鉄幹は、このデマに関わったのが、評論家の高須梅渓らだとわかって告訴をしますが、犯人の特定にはならず終わりました。
これによって、明星のメンバーは半減、鉄幹は経営難から経済的な窮地に陥ります。
しかし、このあと与謝野晶子が『明星』に入会。新詩社は最盛期を迎えるのです。
与謝野晶子の夫として
与謝野鉄幹は結社の主催者としては、知名度がありましたが、実作の点では、妻与謝野晶子が一種の天才であったため、夫としての苦悩もあったようです。
そして、一時あれほど権勢をふるった『明星』も101号を持って廃刊となります。
衰ふるわが青春か詩の才か夢に見るなり枯れにし葵
わが雛はみな鳥となり飛び去り
ぬうつろの籠のさびしきかなや
その頃の、あまりにも寂しい鉄幹の歌です。
与謝野鉄幹の辞世の句
与謝野鉄幹の辞世の句、短歌として知られているものは、下の歌です。
知りぬべきことは大かた知りつくし今何を見る大空を見る
初期の作品と比べると、柔らかいものとなっています。
鉄幹は1935(昭和10)年の今日、気管支カタルを患い62歳の生涯を閉じました。
後年は与謝野晶子ばかりが取り上げられましたが、鉄幹の功績は、やはり、近代短歌に浪漫主義をもたらしたこと、そして、与謝野晶子はもちろん、北原白秋、吉井勇、石川啄木らを見い出したことにもつながります。
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